12月10日 地縛霊

 12月10日、木曜日。晴れ。勤めている時はボーナスが出るかどうかビクビクしていた日だな、この辺りが。


 昨日、ケアマネから連絡が来た件。「1月の毎週末、父のショートステイを利用する」計画。

 これ、昨晩iPadのカレンダーに行事分けの色を塗っていきながら、四つん這いになるほど笑った。父の行事は緑色に塗っているが、1月は全ての日に緑のタグがついてしまった。

 一ヶ月まるまるデイサービスなりショートステイなり、何かしらの形で出払うことになる。老人ホーム運営側から見れば、入所しているわけでもないのに毎日いる父は地縛霊。もしくは牢名主。何しろいつでもいるのだ。恐らく向こうも困惑するだろう。もしかしたら「あの人見えるか」的な新人研修に使われるかもしれない。久しぶりにゲラゲラと笑った。


 ひとしきり笑い終えた後で、毎週末のショートステイはないな、と判断。皆勤賞はえらくもなんともないし、金額の問題もある。何よりさすがに心が痛む。なら潔く入所させた方がまだいい。

 いざとなったらそうは言ってられないが、とりあえず1月中旬に一度お泊まりしてもらうことになった。こちらにも休みは必要なのだ。

 ケアマネにそのことを報告すると「本当にそれだけで大丈夫ですか」と聞かれた。こちらの家の状況をご存知なので提案してくれていることはわかる。ありがたいがそういう時は「カネがねえんです」で全て丸く収まる。


 11時ごろ、母の姉、おれにとっておばにあたる人が来てくれた。

 母が寝たきりになってから初めて顔を合わせたので、ショックは想像以上に大きかったようだ。ひたすら涙を流していたが、おばさんだって大変なのだ。パーキンソン病に7年ほど苦しまされているのである。

「奇跡が起きないかねえ」「もういい薬はないのかねえ」などと言っていたが、そこに冷や水をかける必要はない。「残念だけど、ここから劇的に回復する見込みはないです」とだけ答えておいた。


 おばが帰り、昼食。おかゆを口に運んでやる。飲み込むまでの時間が長くなっている。それは仕方のないことだ。

 だが、食後の歯磨きに抵抗を示すようになってきた。

 まずブラシのようなわたのような、なんか黄色いやつで食べ残しをこそげ落とす。その後、うがい薬を薄めたもので口をゆすぎ、おれが構えた洗面器に水を吐き出せばいいだけのことなのだが、「吐いて」と促しても全然吐かない。実に3分以上口をゆすぎ続け、しまいにはそれを飲んでしまう。


 正直に言うと、ちょっとね、イラッとしたのよ。

 良くないんだけど、イラッとしたのね。ずっと中腰で構えている意味もないし、「吐いて」という指示に従ってくれないし。悪いのではなく母でなく病気なんだけど、それでも正直に言うとね、かなりイラッとね。しちゃったね。


 また、意味の分からない雄叫びのようなものも増えてきた。どこかが痛いのか苦しいのかは答えてくれない。ただうがーと大声を張り上げるのみ。一体どうすればいいのか、途方に暮れる。これを調理中に連続でやられるのだから、たまったものではない。


 あまり良くない流れを感じる。ここは一つ、その流れを断ち切るべくロト6を買うべきだろう。ボーナスが無くなったのならボーナスを作ればいいのである。

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