12月3日 タロ芋ノーイート

 12月3日、木曜日。曇り。寒い。


 主治医が言っていたように、日中の母は、ほぼ眠っている。今まで行っていたベッド上でのリハビリも難しい。


 言っても仕方がないが、このリハビリへの距離感が厄介ごとの元となる気がする。ベッドサイドに腰掛けることができなくなったので、食事の時はこちらが中腰にならなければならない。ベッドとテーブルの高さを調整してもそこはどうすることもできない。


 また、両手の動きがかなり怪しくなっており、歯磨きが自力ではできなくなった。当然コップを持つのも難儀になってしまい、水分の補給も不安が残る。


 寝返りも難しく、これによりうんこの掃除が入院前よりもかなり大変になった。床ずれはマットが定期的に動いて予防してくれるが、効果があるのかどうかはまだ分からない。


 ついでにいうと、言語がかなりおかしい。何を言っているのか一言も理解できないことが多い。


「窓が曲がって見えるっていうことを息が続かない」


 といった具合だ。何をすればいいのか分からないので、手当たり次第に行動するしかない。


 まずはベッド上でのリハビリが必要なのだが、睡眠時間が長いのでいつ実行すればいいのかが分からない。目下、困ったことづくめだ。


 寝ているから、うんこ確認の為に起こすのも可哀想だ。ゴミ収集車が来るまでに片付けておきたかったが、オーライオーラーイという掛け声とともに収集車は去ってしまった。


 6時30分に起きて7時に朝食、8時に再び眠り、10時30分の今、目を覚ます気配がない。11時には訪問看護のリハビリが来るので起きてもらわないとならない。その前にうんこ掃除しておかないとリハビリの時間が減ってしまう。


 昨晩、兄が帰宅してからのこと。どんな感じかと聞かれた。まだ母は起きていたので、内容がバレないよう英語で伝えた。


「アイシンク、ノーグッド」

「え?」


 察しろ。


「マザーマインドイズバッド」

「何言ってんだ?」


 察する気配なし。小声で兄に伝える。


「日本語で言ったら聞かれるから」

「ああそういうことか。ルー大柴ごっこかと」


 そんなことをする精神的余裕はないし、あってもやらないだろう、楽天の社員じゃないんだから。そもそも日本語以外喋れない。自身にクォーターの可能性もあるのに残念なことである。


 祖母のお通夜の時、初めて見る祖父の写真がたくさんあった。それを見る限り、我が祖父はどう見てもタロ芋を主食にしているようなサモア系のごついおっさんだった。和服や洋服、軍服を着てはいたが、全然日本人に見えない。なんとなればサモア人が日本人のコスプレをしているような感覚すら受けた。

 祖母のお通夜の時にそのことを知らないか聞いてみたが、みんななんとなくモゴモゴと言葉を濁していた。なぜだ。おれも含めた母方の家系がみんな太っているのも血のせいなのか。


 それはさておき、今後も母がウェイクアップしている間はサモア風味のイングリッシュで状態をスピアテイク(やりとり)することになった。英語のボキャブラリーのグローアップをコンティニューすることにより生じるイノベーションで、我が言葉は母はもとより、ブラザーにもドクターにも意味が全く通じなくなっていくことだろう。

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