11月22日 JKM問題

 11月22日、日曜日。世間は3連休らしい。GO TOトラベルがポシャったとか言われているが実感がなさすぎる。


 今しがた、北海道から宅急便が届いた。母の友人が送ってくれたのだ。ダンボールに入った10キロのじゃがいも。


 これが今4箱ある。どうしろと。開いてないのが4箱ある。どうすれば。開いている一箱はまだ半分ある。じゃがいもかぶりまくりという妙な状況に陥ってしまった。どうして。


 うちはテキサスの化石掘りではないし、コンテナルームに住んでいるわけでもない。ましてやじゃがいもの転売に精を出しているわけでもない。とりあえずご近所に配るのは確定だが、さすがにダンボール一箱渡すと相手が気兼ねする。せいぜい3キロくらいだろう。


 数日前に書いたが、ポテトサラダを作るのはかなり面倒なので今日はマッシュポテトを作った。偉そうな名前だが具がないポテトサラダである。本当は作り方が違うのかもしれないが、おれが作ってそう主張しているのだからマッシュポテトなのである。


 前日はチンして塩かけてオリーブオイルで焼いた。

 テキサスの化石掘りはだいたいこれを食べている。子供の頃、学研まんがひみつシリーズの「化石のひみつ」で読んだから間違いない。じゃがいも料理の種類までは描かれていなかったが、「いい加減じゃがいもにも飽きたぜ」とテンガロンハットのおっさんが言っていた。


 もっさりしたそれを口に入れたらテキサスのからからに乾いた強風が情緒のかけらもなく胸にびゅうびゅうと吹きすさんだ。この無常な味わいこそ、化石掘りが食べていたものと認定して良いと思う。テキサスに行ったことはないが間違いない。

 無常という言葉が味覚につながるとは自分でも思わなかった。胸に風が吹くのは単にわびしさのせいかもしれない。だが化石掘りたちはチンして塩かけてオリーブオイルで焼いた無常風味のじゃがいもを口に詰め込みながら、今日もハンマーをガツンガツンと振るっているのだ。テキサス人は無常という言葉を知らないだろうから苦にはならないはずである、たぶん。


 じゃがいも、送って頂いてありがたい。ほどほどにうれしい。けれどね、と控えめな主張を許してもらえるのならば、


「北海道から10キロのものを送っていただけるのなら、なんか他にあったのではないですか、なんかこう、冷たい海でピチピチしてる系とか、川に帰ってきてピチピチしてる系とか、もっと軽いお菓子系とか。皆様こぞってじゃがいもを送ってくださっているので我が家は倉庫みたいです。主食にしなければ消費できません。ありがたいことではございますが、今どきじゃがいもを主食にするのはテキサスの化石掘りか屯田兵の生き残りくらいではないでしょうか」


 というのが本心である。


 目下この「じゃがいもかぶりまくり(JKM)問題」については一に消費、二に配布、三四がなくて五に消費というペースで挑むしかない。デフレ対策か。

 根本的な対応として、送っていただいた先に直接働きかけるという方法がある。何らかの能力で時を10月頃に戻し、電話で「もう他所様からじゃがいも頂きました、ヘヘッ」と前もって先制攻撃をしかけるという手もあるが、そんな失礼なことできるか。そもそも時を戻す能力をおれは持っていない。能力者を探す時間もなさそうだ。


 熟考した末にやっと気付いた。いかに大量生産、大量消費できるじゃがいも料理をこしらえるかがポイントなのである。形が残っていると満腹が早いので、つぶすなり濾すなりすればいい。行き着き先はポテトサラダ。だめだ。あれはもういい。苦労に合わない。更に言うと他の具材が入ると満腹になるのが早い。じゃがいものみで勝負する。


 形を残さないのであれば、ポタージュというのはどうか。作り方はおいおい調べるとして、いかにも大量生産に向いた牧歌的料理という気がする。ブレンダーもあるし、やれる気がする。ドイツあたりの軍人も戦場ででかい鍋ころがして作っている気がするので、そんなに難しいものでもないだろう。テキサスの化石掘りもなんかそんなのを作っていた気がする。


 早速ポタージュのレシピを見てみる。じゃがいもの他に必要なものはコンソメ、牛乳、バター、玉ねぎ、薄力粉、生クリーム。最後の2つは家にないので使わない。牛乳は苦手なので豆乳で代用する。


 必要なものは買う。だが薄力粉や生クリームは今まで一度も使ったことがない。だから使わなくても生きていくことができる。なのでいらないというシンプルな思考は、料理において、たいてい失敗へと至る。


 1時間ほどかけて完成したが、味ととろみが全然つかない。ポタージュというものはドロドロしたものだったはずだが、根性が足りないのか気合が足りないのか実にサラッサラとしている。

 本当に足りないのは材料なのだが、今まで使わずとも生きてこられたのだから必要がねぇのだ。それに、テキサスの化石掘りが生クリームを持っているとも思えない。味がつかないのは気合と塩が足りないからである。


 こうして北海道産の美味しいじゃがいもを多用した「無常かつ不毛な味わい、たやすく満腹になるサラサラポタージュ系スープ」が仕上がった。

 店でこういうものを出す時、生クリームかなんかで模様をつけているのを見たことがある。真似て豆乳でうずまきを描いたら極端に味が薄くなり、更にサラッサラになった。かくなる上は味噌でも入れるか。

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