その呼び名はちょっと嫌だなという話

 コロナ、札幌、ステージ4。コロナ患者が札幌で大量に出てしまった為、警戒ステージを4に引き上げるとの情報を聞いた。


 11月17日、火曜日。父はデイに、母は家で訪問入浴の日である。


 ステージ4という呼び方にぎくりとする。母の8月末の状態がそれだったからだ。主治医が小声かつ早口で前任の訪問看護にそれを告げた時、ショックで首が前のめりになってしまったことを覚えている。今がどういう状態かは、再び文字にするのが辛いのでやめておく。


 母はテレビが好きだ。ニュースにしろバラエティにしろよく観ている。最近は大相撲に熱中しており、お気に入りの力士は炎鵬だそうだ。貴景勝が勝つとブーイングをしている。「顔が嫌い」となかなか辛辣なことを言っている。


 かたやおれはテレビが大嫌いなので、画面に背を向けて介護している。プロ野球や相撲やプロレスくらいしか観る価値がない。あと吉田類の酒場放浪記。

 なので、全く気を置いていない背後のテレビから急に「ステージ4」という言葉が聞こえると身構えてしまうのだ。精神的外傷というのはこういうものなのだろう。


 もちろんその呼び方をやめてほしいとお願いしているわけではない。世の中で起こる悪いことは全て前任の訪問看護の仕業である。コロナが流行ったのも交通事故が起こるのもカープが5位に終わったのも左手首が痛いのも全部あいつのせいで確定。

 あの野郎、会議に遅れてきたので手っ取り早く情報を仕入れようと思ったのだろう、主治医に「ステージは?」と雑に聞きやがったのだ。その話は以前の日記に書いた。こっちが聞きたくないから聞かずにおいたものを雑にほじくり返しやがって。


 なので別の呼び名を考えてみようの巻。ステージという言葉を使わずに現状のコロナ禍を表現するのだ。


 ステップはどうだろう。ステップ4。楽しいかよ。楽しくてステップ踏んでるのかよ。不謹慎にも程がある。

 検索しても出てこないんだけど、昔アメリカで「恋のステップ1・2・3」という曲が流行った気がする。確かバリー・ホワイトだったような覚えがあるが、邦題を知らされたらそのダサさに激怒するのではないだろうか。


 ランクはどうか。ランクアップしてどうする。上に行けば行くほどエラいみたいだし、テレビなんかで「栃木県のランクがアップしました」とか言い出したら魅力ランクと勘違いした栃木県民、大喜びでしもつかれ片手にかんぴょう音頭を踊りだす。栃木いいところだけどなぜ魅力ランクが最下位なんだろう。


 ではグレード。略すとG。G1が最上位でG3が一番下。「TOKYO G1」とかだと無駄にかっこいい。都知事が標語にしそうだ。というか競馬か。

 もし競馬の実況があったら「現在G1の東京、府中競馬場で開催される国際G1レース・ジャパンカップ。今年はG1のパリ、ベルリン、G2のメルボルンからG1ホースが参戦しております」となり、ジーワンジーワンと夏の終わりのセミのようにやかましいことになる。


 ここまできて分かった。もうステージでいいです。

 すでに知れ渡っているフェーズがあまり使われてないようだが、その理由はわからない。一昨年とかインフルエンザの時に「フェーズ3で〜」と騒いでいたような気がするのだが。

 けどもういいです。呼び名はステージでいいです。私の負けです。


 クラスターという呼び名がある。いまだにどうにも慣れない。ニュースでこの言葉が出回り始めた頃は、必ず「クラスターと呼ばれる感染者の集団」と注釈を加えていた。「感染者集団」と言えば良いのに、実に無駄である。

 そもそもわかりづらいのだ。クラスターというのが仲間的な結束を示す言葉であることはわかるが、お年寄りには馴染みがない言葉だろう。

 だったら「ブラザーと呼ばれる感染者の集団」とか「パーティと呼ばれる以下同文」でも良かったのではないか。

 ここまできて再び分かった。おれにはネーミングセンスというものが欠落しているのだ。


 呼び名で唐突に思い出したけど、「自然界の4つの力」を統一的に表す理論の呼び名もなかなか痺れるものがある。この辺、表現があいまいだけど全然理解していないからであり、気にしていただく必要はない。


 未完成の理論には大統一理論、超大統一理論、超対称大統一理論などがあり、長くなるほどすごくてエラくてインテリジェンスパワーに溢れているのだろうと簡単に想像がつく。

 このレベルの学問を語る科学者は、生活の全てを学問に捧げているので普段自分が何を着ているとか食べているとか気にしない。なぜならばマッドサイエンティストはマンガだとだいたいそういう扱いだからだ。こぞって衣食住に興味がない。だから理論の名称にもこだわりがない。なんの捻りもなくひたすら上積みされていく文字に、かえって迫力を感じる。

 特に超大統一理論はまたの名を「万物の理論」。余計なものをこそげ落とした真のボスといった風格が漂う。多分白くてのぺっとしてる系。「うしおととら」で言うと最終局面で小さくなった白面の者と似た趣がある。


 もちろん内容は理解していない。そもそも自然界の4つの力とは何ぞや状態であるが、それらは電磁力、弱い力、強い力、重力らしい。それらを統一式で表すことができたら何ができるようになるのかも分からないが、一つだけ断言できることがある。

 それは、もしも完全な統一式が発見されたら、頭に画数が多くて気合の入った漢字が当てられるだろうということだ。極、到、獄、鬼、覇などがそれである。なんなら焼、煮、鰯、獣、飛などでもいい。マンガだとだいたいそうするように、科学者は「名前などなんでもいい」と言うはずだ。今のうちに候補を挙げておけば、究極の理論の名付け親になるチャンスである。

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