暴走モード、突入準備

 11月9日、月曜日。曇り。前日の天気予報では晴れだと言っていたが、洗濯物を干さずによかった。


 朝9時、父の訪問看護が来た。前回バグを撒き散らしたキャラではなく、とても信頼している古株の人だ。母とも仲が良いので、悪いとは思いつつも母の状態を少し診てもらった。


 現在、母は3日連続でうんこが出ていない。11月5日の「浣腸ギガマックスうんこ盛り盛り※」を最後に全く出ていない。痛みはないが気になるらしく、数分に一度


「ぬお。ぬおおおお」


 とエヴァンゲリオン初号機のような唸り声を上げている。このままでは目がピカピカ光って暴走してしまう。


 母を触診してもらったところ、やはり大腸を手術した影響が出ているらしい。先日の浣腸ギガマックスうんこ盛り盛りも尾を引いているそうだ。空っぽになったからうんこがまだ溜まっておらず、ガスで苦しくなっているのかもしれないとのこと。


 訪問看護が父に挨拶をする。父は当然のごとく無視で応える。本当にこいつ。こいつ本当に。こいつに関する何もかもがめんどくさくなってきた。

 水を飲めと言っても飲まない、手伝うからリハビリをしろと言ってもやらない、こちらの言うことには何一つ従わない。

 だが要求する時だけは大声を出し、やれ食事の量が足りない、やれ寒いから上着を着せろと騒ぎ出す。室温24度でも外へ行くような上着を要求するのだ。看護師さんも呆れた様子で「着たければご自分でどうぞ。少しでも体を動かせば暖かくなりますよ」と告げて帰っていった。


 その後しばらくし、今度は母の訪問看護が。早速、中3日うんこが出ていない状態を説明する。看護師さんの目が鋭くなった。


「浣腸ですね」


 バタバタと浣腸の準備に取り掛かる。お湯、石鹸、浣腸。浣腸は説明書に「冷やしておけ」と書いてあり、形状が何となく野菜っぽかったので冷蔵庫の野菜室でバッチリ冷やしておいたのだが。


「温めたほうがいいですよ」


 と看護師さんに教わり、お湯で温める。確かにビールではあるまいし、キンキンに冷やしても仕方がない気がする。何よりキンキンに冷えていても美味しくないのである。いや美味いのかも。何言ってんだ死ぬ気か。

その頃父は母を取り巻く状況に一切興味がないようで、どうでもいいテレビを観ていた。


 しかしまた食事と排便がかぶさるな。うちのリビングは戦場かな、宇宙かな、それとも地獄かな。実は今日の昼食はカレーなんだな。まあいいかな。


 浣腸後の母はまさにエヴァ初号機さながらにウオンウオンと咆哮。ATフィールドならぬかりんとうのような形状のUNTIうんちフィールドを次々に生み出していった。だが相当痛いらしい。目が光ったら暴走モード突入だ!


 なぜさっきからろくすっぽ知らないエヴァンゲリオンに絡めているのか自分でもわからないが、多分ゲリオンのゲリあたりがそうさせているものと思われる。オンも捨てがたい。ついでにいうと「浣腸」というものものしい単語も、極太明朝体のマティスで書いたらかっこいんじゃないか、といった程度のものではなかろうか。


 前回と同じくどんぶり一杯ほどのうんこが出た。ガスでなく実体がバリバリに詰まっていたようだ。それが12時ちょうど。そいつをトイレに流してくれる看護師さんと交錯しつつ父の食卓にカレーを運ぶ。悪気は一切ない。こいつは自分の生活リズムが1分でもずらされるとキャッキャキャッキャとサルのように騒ぎ出すから仕方がないのだ。


 今後の方針を相談する。看護師さんの提案は「中1日大便が出なかったら翌日座薬。それでも出なかったら呼んでください」。おれが座薬を打つことはほぼ約束されたことになる。準備はしておくが、それでもいろいろ不安があるのでとりあえず聞いてみた。


「もしうんこが詰まってたらどうしましょうか」

「大便を回避して横に流すことができれば……」

「今、野球の話じゃないですよね」


 大便を回避して座薬を横に流す。なるほど、何言ってるのかわからない。回避しつつ横に流すという文脈からは、野球の流し打ちしか想像がつかない。こう、内角高めに時速140キロで迫ってきたうんこに対し、肩を開いて回避しつつ逆方向に華麗に流すといったイメージ。センター返ししかできないおれが、そんな綺麗な流し打ちを決めることができるのだろうか。

 今のままなら、明後日の日記は未だかつてないほどストレートにドギツイものになることが予想される。閲覧注意である。






 次次回予告


 マグマ系

 ダイバー





 ※ 浣腸ギガマックスうんこ盛り盛りとは?

 読んで字のごとく、浣腸を打ってしばらくしたらうんこがプリプリモリモリブリブリと出てきてすごかった出来事。極めて頭が悪い表現だが、本当にそうとしか言い表しようがない。11月5日の事件なので「いい11飯でうんこ盛り盛り」と覚えてもらえれば幸いである。

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