お日様ポカポカで気持ち良いれすね〜

 昨日は朝から血圧が上がりまくった一日でした。とても良くないと思いました。10月6日、火曜日。関東平野の天気、晴れ。


 まず8時、洗濯物を干す為にベランダへ。10分くらいかかってしまうので、前もって両親にトイレは大丈夫かと聞いておく。


「目の届かないところでのトイレは緊急事態と知れ」


 少しでも目を離す時は必ず便意の確認をせよ。介護者の心得十箇条におけるその4である。

 緊急事態が起きた時、その苦労心労徒労疲労度たるや、普通のケツ拭きとは比にならないものだということはお分かりだと思う。ケツ拭き以外に床拭き、パンツとズボンの交換、ズボンの下洗い、便座の清掃といったまあまあやりたくないことばかりをやらされる羽目になるのだ。


 今回、両親ともに大丈夫と言った。確かに大丈夫と言った。大丈夫と言ったので安心して洗濯物を干していたのである。


 久しぶりに空は晴れ、干されたタオルやTシャツも気持ち良さそうにニコニコと笑い、つられておれもニヤニヤうふふと笑った。お日様もウシシシと笑っており、ハンガーどももゲラゲラと笑い声を上げていた。

 ここら辺どうにも頭の悪さが際立つが、久しぶりの快晴に洗濯物を干すのは頭が悪くなるくらい気分がいいものだ。別に平塚市を照らすお日様にテトラヒドロカンナビノールが多量に含まれているわけではないし、誰もがハッピー&ヒッピーになるというわけではない。日頃の生活に楽しみとかうるおいがほぼないので、こういったところで喜びを感じるようになったのである。


 このように奴隷エキスがドバドバと放出されることにより安定してしまっている精神状態を、「幸福度レベルキャップ」と呼んでいる。おまえの幸せはここが上限ですよ、天井ですよ、と見切りをつけているのだ。

 当たり前のことだが何を幸せに感じるか、人によって違う。介護者となって3年にもなれば、空が晴れているだけで、もうそれだけで、ご飯がおいしい。


「上を見るな、しもを見ろ」


 介護者の心得その2に書かれていることからも分かるが、上を見てはいけない。上には空があるだけなのだ。


 洗濯物を干し終え、階下に降りる。すると、開け放たれたトイレの前に車椅子があった。母が入っているのだ。緊急事態である。瞬時にまなじりを吊り上げながら中を確認する。


 便座に腰掛けた母が「ごめん、ごめん」と言っていた。


「え? さっき確認したよな?」

「ごめん」

「なんで確認を無視してうんこを漏らすの?」

「一人でできると思って」

「何一つ、一人では、できないだろ!」


 当事者どもどころか、読んでくださっている方まで含め誰もが嫌な思いをするこの場面、大半をカットすることにする。母を怒鳴りつけてしまったのも本当に反省しているし、こちらがトイレできつい作業をしているのに関わらず、父が「入るからどけよ!」と騒ぎ立てた瞬間に胸ぐらを掴みかけたことを記録しておくのも、後々になって憂いを残す気がするからである。


 本来ならこういう時は「日記のネタを作ってくれてありがとう。黙って書きますのでよろしく」くらい思えるようにならないとダメなのだ。日頃そう思っているのだが「すわ有事」となった際はやはりまだまだ。修行の足りなさだけが浮き彫りになる。

 余裕と優しさがないと下の世話は続けられない。ついでに言うと余裕がないと日記の書き分けができない。毎日「うんこ掃除しました」になってしまう。今後はその回数が減るよりも増える可能性の方が高いということを、おれだけは忘れてはならないのだ。


 今回の一連の流れのハイライトは、トイレと床を掃除をしている時のこと。左手のアップルウォッチ様が何度も震えこきくさりやがったのである。

 朝も早いうちから何事かと画面を見ると、


「その調子です!」


 と表示されている。アクティビティという1日の活動量を示すグラフがおれの運動量を称えているのだ。

 このタイミングで表示され、怒り狂わないほどおれは人間ができていない。「お前みたいなもんの運動内容は、ヨガやジムなどではなく便所掃除がお似合いだ」とウォッチ様に告げられた気分になる。


「てめえ何がその調子だ!」


 そこまで怒るなら外せばいいようなものだが、掃除をしている中で外す機会を見失っていた。シンプルな「なら外せよ」の一言のみで済んでしまうのだが、せっかくだから使い倒すという貧乏根性がそれを許さない。原因の大半はおれにある。


 そしてアップルウォッチ様にも原因はある。

 もし日本製のスマートウォッチだったら空気を読み、こちらが床のうんこを拭いていることすらも察知し、何も言わずに見守っていたことだろう。なんなら終わった後に「お疲れ様でした」とねぎらいの言葉もくれるかもしれない。さらに「お疲れ様でした」の後にうんこの絵文字までつけて全力で労ってくれることもありうる。

 だが「空気を読む」と言う行為は日本人特有のものと聞く。アップルウォッチはUSA製品。今回のように、ユーの状況などミーが知ったことかとばかり、押し付けがましい応援をしてくるのはいかにもアメリカっぽい。行ったことないから知らんが。


 この後は訪問入浴が来る。ちょうどケツも綺麗にしてもらえるので、ある意味タイミングが良い。一応、小声で今朝の出来事を伝えておこう。

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