通常営業の再開と今後の懸念1

 予定では14時に父が、16時30分に母がおつとめから帰ってくる。今13時を回ったところ。のどが渇いてきた。おかげで水道水が美味しい。

 自宅にいながら口の中がカラッカラになるほど緊張することも普通はあまりない。もし皆様が日常の中でそのような状況になることが頻繁にあるのなら、一旦深呼吸をし、大事なものをまとめておくことをお勧めする。

 なお、毎度の説明であるが、ここでいうおつとめとは短期入所、ショートステイのことを指す。


 帰ってきてからだと色んなトラブルが予想されるので、午前をフルに使い夕食の支度をした。

 今回のシャバ飯(おつとめ明けの食事)はシーフドシチュー。先に様々な野菜を煮込んでおき、食べる直前にソテーした魚介を入れるというおれにしては手の混んだものだ。これならきっと喜んで食べてくれるだろう。

 しかも今回は市販のルーを使っていない。小麦粉を少なくすれば血糖値に悪影響は出にくいはずだ。


 一週間、両親不在の間に考えたことがある。宅配弁当をやめるのだ。

 最初は栄養バランスも取れていていいかなと感じていた。だが食べている二人がなんだか日に日につまらなそうな顔になってきたのを見るにつれ、これではいかんなという結論に至ったのである。


 特に意見をはっきり言う母が、口に出して「飽きた」と言えないのは、おれの負担がもう一度最大級になることを危惧しているのだろう。しかしこれはもう仕方がないことだ。食事は楽しみでなければならない。

 昼だけは申し訳ないがスパゲティーとかでごまかし、朝と夜はなんとかしよう。「昼は包丁を使わない」と決めておけば少しは楽になるはずだ。


 これからの食事に臨み、まずは調理法を焼く、煮る、蒸すの先発三本柱で固める。味付けはこう、この、気合というか雰囲気というか調味料のガッツでどうにかして補い、メインとなる食材を魚、鶏肉、卵系と日ごとに入れ替える。サラダ等の配置も予め考えておけば、ひと月のナイター(夕食)で30戦18勝は堅い。

 仮に負け越したとしても「次につながる試合(食事)になりましたね、ええ」とか名将面して言い訳を述べればいいのだ。次につながる食事というものが具体的にどういうものなのかはさっぱり分からないが、それを食べさせられる側にとっては迷惑以外の何物でもない。そもそも料理で負け越しは論外である。


 美味しいものを作るのは難しいので、体に良いもので勝ち越しを目指したい。体に良いものはだいたい美味しくないので言い訳としても成立する。がんばりたい。がんばろう、ではなくがんばりたい。


 父が帰ってきた。あと少しで母も帰ってくる。再びの日常だ。家に居たい母としてはさぞ窮屈な一週間を過ごしたことだろう。だけどそのおかげでこちらは休むことができた。感謝の意味を込めて、できるだけ笑顔で迎え入れてあげたい。次のおつとめの話は落ち着いてからにしよう。


 ……とここできれいに終わるはずだったが、戻ってきた母はいきなり声を大にして言った。


「もう二度と行かない! いやだ!」


 完全に虚を突かれた。試合(食事)前に本格的な奇襲をしかけてきたのだ。続く。

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