仏間の中心で便意を叫んだけだもの・壱

 台風12号の到来とほぼ同じくして、ポータブルトイレが我が家に導入された。

 お値段、14万円。これが業者さんの割引により10万円になり、父の負担割合2割が適用されるのでひー、ふー、2万円まで下がったのである。ありがとう日本。

 一旦は全額負担。10万円を支払った後、数ヶ月後に指定口座に約8万円が振り込まれる。繰り返すがありがたい。アメリカでこんなことやってたら破産以外の道はない。アメリカ行ったことがないから適当なイメージで適当に言っているだけなので適当に流してください。


 で、問題のブツ、「御便座オヴェンザ様」と名付けたポータブルトイレは仏間に設置した。設置といってもウイリーさせればキャスターでの移動が可能。我が家において、トイレは従えるものになったのだ。人間がおもむくのではなく、「貴様がついて来い」と言える関係になった。これは排便ヒエラルキーの絶対的優位種に対して起きたコペルニクス的転回と言ってもいいのではないだろうか。


 介護用品業者から消耗品の設置と使用方法などの説明を受けつつ、早速使ってみようとズボンを下ろす。

 嘘である。別に使いたくて仕方がないわけではない。


 しかしすごい性能が詰まった御便座様、便器にしておくにはもったいない。排便をした後、ボタンを押せばうんこが青いラップにくるまって出てくるのだ。もちろん不透明度の高いラップなので、黙っていれば中身がうんことは分からない。これを使った悪質ないたずらが色々思いついたが実行する気もない。そんなくだらないことは底辺動画屋に任せておけばいい。

 また、匂いもしないらしい。凝固剤を入れてあるので尿が漏れる恐れはないようだ。電気は使うものの水は使わないので、いざ断水となった時にこそ、この御便座様は真価を発揮するのだろう。


 とりあえず座ってみた。視界は二柱の仏壇が占めている。片手で開閉できるカバーをしてしまえば「見てくれは便器には見えません。いい感じの椅子です」と持ち上げたいところだが、おれの主観だと「便座が仏間にあるわガハハ」である。


 ズボンは履いている。何事においても一度は実践しなければ理解できないので、使用するべきだとは思うのだが。思ってはいるのだが。おそらくは常識が邪魔をしてズボンを下ろすことができない。


 まず排便時に仏壇と遺影しか目のやりどころがないというのは、どうか。いかがか。

 法事の時など偉そうな坊主が「いつもご先祖様のことを想って過ごすことが重要です……」などとありがてえ風の説教を垂れこきくさりまくりやがるが、まさかうんこ垂れている時までもご先祖様のことを想えとは言うまい。偉そうな坊主の家のトイレの壁にご先祖様の遺影が貼ってあるとも思えない。

 今更ながらだが、檀家となっているお寺への敬意がゼロ。なんだ「ありがてえ風の説教を垂れこきくさりまくりやがる」とは。

 なんにせよ大統領にしろ犬にしろ、うんこの時は遠くを見ているか白目を向いているかのどちらかだ。せめて排便時くらいはご先祖様と無関係でいたい。自由でいたい。


 こうやってどうでもいいことをつらつらと書き続けているということは、御便座様を使うことが出来なかったということを意味している。殻を破れないのだが、別に破らなくてもいい殻だからそのままでいいんじゃないかな、という気もする。

 だいたい、もし仏間でうんこをすることに慣れてしまったらどうするのか。親戚の集まりとかで間違えて御便座様に座ろうものなら反射的にうんこをしてしまう恐れもある。

 最悪の場合、椅子に座る行為が「排便ヨシ」状態であると脳みそが勘違いし、車に乗ったりソファに腰掛けた瞬間にうんこしだしてしまったら、もう社会復帰はできない。


 けれど、けれどである。一度は使ってみないと、いざという時のトラブルに対応できない恐れもある。機械は慣れなければならないし、使ってこそ意味がある。

 なので、この誰も望んでいない「仏間の中心で便意を叫んだけだもの」は続く気がする。どうせ何回かチャレンジするのだ。ならば日記に書かない手はない。

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