切り離せないのならついてこい

 深夜、相変わらず両親のトイレタイムがかち合う。母をトイレに押し込んで一息ついていると、父の寝室から畳の上を進む車椅子のゴリゴリ……という音がホラー映画のように響いてくるのだ。

 特に2時台は黄金ゴールデンタイム、うんこだけに。「こいつらは立ち会い時の力士のようにタイミングを合わせてるのか」と疑いたくなるくらいに毎夜のアルマゲドンが繰り返され、付き合わされるこちらとしては疲労困憊である。


 これらのやりとりで痛感したことがある。どんな形にしろ、人間とトイレの関係は絶対に切り離せないのだ。


 なので、こちらとしても開き直ることにした。トイレが足りなければトイレを増設すればいいのである。

 増設と言っても家を改造するのではなく、ポータブルトイレと言われるもの。これを先ほど福祉用具の業者さんにお願いした。


 今まで興味がなかったのでおまるのようなものを想像していたのだが、カタログを見ると普通のトイレよりもいいのでは、と思わせる機能が盛り沢山。ウォシュレット付きのものもあったが、今回選んだのは


「うんこを凝固剤で固め、ボタン1発でラッピングして排出してくれるやつ〜」


 である。初代ドラえもんのイメージで絶叫してみた。

 どういうものかというと、カタログによると普段は「家具調」っぽい木目の椅子なのだが、蓋を開けるだけでトイレに早変わり。おれから言わせてもらえればどこから見てもトイレである。おれの感覚がズレているのかカタログの主張が正しいのか分からないので、今度親戚が来たら何も言わずに椅子として勧めてみたい。外道まっしぐら。


 で、蓋を閉めると匂いもシャットアウト。先述したように脱糞後はボタンを押せばラップで包んでくれる。断水時など、いざという時も使える。

 当たり前だがラッピングと言っても料理で使うような透明のものではない。うんこが透明なラップにくるまって転がってきたなら、誰もが5秒ほどは無表情でフリーズするだろう。再起動には勇気が必要だ。


 ポータブルトイレ、それがどんなもんか、実は非常に興味がある。訪問看護師さんとも話をしたが、「普通の方が使っていろんな意見をメーカーに伝えるのはとてもいいことだと思います」と他人事感丸出しで言っていた。それに対するおれの返答は「なら使ってやろう」だ。


 だってすごくないですか。やろうと思えば家の中のどこでもできるんですよ。なんとなれば「太陽がまぶしかったから」とか異邦人のムルソーみたいな言葉一つ残して、公園の木陰でもできるわけですよ。罪状が何になるのかはまあ置いておくとして。


 ポータブルトイレの出現により、人間とトイレの関係は生まれ変わる。切っても切り離せない関係から「切り離せないのならばついてこい」に変わるのだ。


 ぜひ、購入後に使ってみてその様子をルポしてみたい。おれもそこまでタガが外れているわけでないので誰も望んでいないのは知っているが、それでもこれは必要なステップな気がするのである。

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