訪問入浴事始

 新しく訪問看護を担当してくれる事業者との契約を終えたのが午前中。前の事業者とのいざこざはこないだ書いた。今回の訪看さんは信用できそうなので一安心。


 すごくどうでもいいのだが、椅子に座っているこちらに対し、彼女たちはフローリングの床に正座して説明してくる。人数分の椅子をご用意できないこちらの落ち度であるゆえ、おれも床に正座をしたら慌てて止められた。なんなら結構笑われた。

 かと言って座布団を用意しておくのも失礼な気がする。「お前んとこは床前提なのかよ」と怒られたら返す言葉がない。


 そして午後、初めて利用するサービスがやってきた。それは訪問入浴。家の中で風呂を組み立て、入浴をさせてくれるサービスだ。

 母は長い時間起立していることができない。なので家でシャワーを浴びさせる時はシャワーチェアが必要になるのだが、それだとどうしても陰部や尻などを洗うことが難しい。時間もかかるし労力も大変なものになる。

 ならばいっそのことプロにお任せしてみてはどうかという流れになったのだ。


 結果から言うと、これは大当たりだった。湯船の中で幸せそうに目を閉じる母の顔を見て、「お願いして良かったな」と心の底から思えた。


 最初の話では畳一畳分のスペースがあれば入浴できると言われていたが、実際は二畳分は必要かと思われる。

 入浴前に血圧、体温、脈拍等のバイタルチェック。

 お湯は風呂場のシャワーから。シャワーヘッドを取り外し、持ち込みのホースにつないで供給。

 浴槽は大きい。シングルベッドと同じくらいのサイズだ。ほぼ仰向けの状態で入浴する。いきなりお湯にドボンという訳ではなく、ゴムのようなシーツみたいなものに体を乗せ、少しずつ沈んでいくので安全だろう。体が不自由な母でも浴槽の縁に腰掛けさせてもらい、スムーズに入浴することができた。

 浴槽の中では体と頭を3人がかりで洗う。本当にしっかりと洗ってくれる。


 気になる料金は負担割合によって違ってくるが、母の場合は1割負担で一回約1200円。この値段でここまでやってもらっていいのかという疑問もあるが、9割は国が払ってくれるようなもんだから構わない。


 なんで事細かに訪問入浴のことを書いたかというと、その素晴らしさを知って欲しかったからだ。皆様のご家族がもし同じような状況になってしまった時、入浴を諦める必要はない。家族でどうにかするのが難しかったら、プロにお願いすればいいのだ。

 風呂は命の洗濯ともいうが、母にとって約二ヶ月ぶりの入浴は言葉通りの効能を発揮したようだ。気持ちいい、気持ちいいと何度も繰り返し、風呂上がりのアイスを食べ、すっきりとした表情で穏やかな昼寝へ落ちていった。


 この訪問入浴が毎週来てくれるというのは本当にありがたい。退院後の小さな希望を担ってくれることだろう。


 明後日は認定調査。市役所の人が来て、母の体がどれだけ動くか、どれほど不自由かを見極め介護度数を決定するのだ。

 つまりそこで元気の良さをアピールしてはならない。いや、元気に越した事はないんだけれど、無理に強がる悪い癖が出ると困る。

 なので母にはこう申し伝えた。


「市役所の人に何か問われたら、とりあえず何もない宙を見上げ、4秒ほど間を開けた後に見当違いのことを言いなさい」


 ケアマネージャーの話だと「5級もありうる」とのことだが、おれの見立てでは4級。実際に一人ではほとんどのことができないのだから、決して嘘をついたり制度を悪用している訳ではないのである。

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