前のエピソード――逆鱗をベッタベタと触られたらどうするか

　寝不足で体が重い。特に足腰がずしりとしている。

　母を２１時に寝かしつけ、２３時、１時、２時、４時、５時３０分に状態を確認しているのだから当然と言える。これくらいは想定の範囲内だ。

　５時３０分に顔を覗き込んだ時、目を覚ましそうな雰囲気だったので声をかけた。

「うんこしますか。というかしてください」

「大丈夫。まだ出ない」

　部屋に悪臭が立ち込めたのはそれから３０分後のことである。２日連続の早朝バズーカー炸裂は正直予想外だった。病院の看護師さん達からは

「一月以上の入院で、便を漏らしたのは一度だけ」

　という証言をもらっていたからである。

　先日書いたように、うんこと言わない相手にもおれはうんこという言葉を使って疑問や提案を投げかける。軽口を叩くことによって自分はもちろんのこと、周囲の人にもリラックスしてもらいたいという、それはそれは優しい心情の発露だ（と思う）。

「しかし、実家に戻ってきてからはスランプを脱出し、２日で２度目の早朝うんこラッシュに翻弄されています」

　ちょうど看護師さんとの電話中、疲れ切った声でおれは報告をした。別段狙ったり面白いと思って使ったわけではないが、早朝うんこラッシュという余りにも教養と品性の足りない言葉が彼女の琴線にぶっかかったものと思われる。変な笑い声を上げながら看護師さんは想像を口にした。

「た、多分ですが、家に戻られての安心感が、脱糞に結びついているのかもしれませんね」

　思い当たる節がある。家に戻ってから全てのものが美味しく感じられ、つい食べ過ぎてしまうと母は言っていた。病院で食べる量よりも多ければ、うんこが漏れるのはすげえ当たり前のことなのかもしれない。

　もちろん人間の体はそこまで単純ではない。パチスロ機に５３枚のメダルを一気に投入すると上限を超えた３枚のメダルが下皿に吐き出される。それはうんこではない。連続した大当りでフィーバーともなれば大量のメダルがこんもりと吐き出されるしドル箱に移す必要もあるが、それもうんこではない。いや、うんこの可能性も残している。今眠くて何を書いているのか本人はわかっていないですね。

　歳をとるとどうしても括約筋はゆるくなる。このひどい暑さも影響しているかもしれない。また、病院食よりは家の食事の方が油分が多いはずだ。そういった要因は早朝もしくは丑三つ時うんこラッシュの土台となり、ドル箱を用意しなければならなくなる。

　ドル箱、つまり便器が用意されていない為、当然下皿（リハビリパンツ）にはうんこメダルがぎっしり。ART（アシストリハビリタイム）うんこラッシュの破壊力に酔え！

　パチスロならいっぱい出て嬉しいな、であるが、うんこの場合は悲劇である。掃除に２０分くらいかかるし臭い。換金もできない。さっきからおれは一体何を日記に書いているのだ、ここまで追い詰められていたのか。

　とりあえずの方針として、「食べる量を減らす作戦」に出ることにした。本人も食べ過ぎたという認識があるのだから、申し訳ないが我慢してもらおう。パチスロで例えると投資金額を抑えるのと同じ意味合いである。

　いや絶対違うが、なんだろうこの……しっくりくる感じは……。