城門を突破せよ!(期待度1)

 週末に病院へ忍び込む為には、何かしらの理由が必要である。平日の17時までは正面口に体温を測るモニターがあるのでそこから大手を振って入れるのだが、土日だと緊急患者搬入口からしか入ることができない。


 緊急口ではまず「何階の誰それに必要なブツを渡しに」とか「誰それのブツを引き取りに来ました」とインターホン越しに理由を述べねばならない。これがかなりの謎システムなのだ。


 なぜかというと、この行いをスルーすることも可能だからである。一人がインターホンで話している間にドアが開くので、その間にわらわらと人が入っていく。誰かがいけにえとなって開けたドアの向こうでは、門番が体温計を構えて待っている。

 体温計係と記帳者名簿を促す係がいるので「老風神と雷爺(かみなりのおきな)」と呼んでいるが、こいつらの態度はなかなか、なかなか悪い。どこかの会社の重役だった頃の気分が今でも抜けず、自分は偉いと勘違いしているのかもしれない。普通、記帳者名簿を顎で指すか。


 週末くらいは母の顔を見に行かずにいいかなとも思ったが、木曜と金曜は会えなかったのだ。木曜は寝てたらしいし、金曜はMRIだったのである。MRIの予定時間より1時間遅れて行ったのだが、急患が入ったのだろう。


 なので本日土曜日、何かしらの理由を考えて門番共を突破し、母の顔を見ないと不安なのである。


 一番手っ取り早いのは、何かけたたましい叫び声を上げながら車で城門突破すること。この冷静で的確な判断には傾奇者前田慶次郎もニッコリ。だが今後のことを考えると車を失うのは惜しい。ならば20メートルほど助走を加え生身で扉に体当たりするという手もある。これだとちょうど緊急患者の搬入口なのでおれのケアもしてもらえるウィン・ウィンの関係。どっちにせよ退院後はブタ箱行きであるが。


 ごくごく普通に考えると、誰かがインターホンで喋っている間に忍び込むのが最も賢い。だがそれができない。なぜかというと正義心がアクティブになるわけではなく、気が小さいからである。インターホンで喋っていた人がおれに気づき、行かせてなるものかと釘付きバットで殴りかかってくることを恐れている。

 また、老風神と雷爺もここぞとばかりに給料分の働きを見せ、都合3人に袋叩きにされるかもしれない。だがそこは緊急患者搬入口。処置室は目の前だから大した問題ではない。


 色々考えた末、嘘をつくことにした。

 まずは「お願いがございます」とインターホンを押し、土下座しながら門番に封筒を見せる。この行いには田中正造も涙を禁じえない。中を見せろとか郵便で出せと言われたら一度車に戻り、城門突破。

 多分中身の確認まではしないと思うので、この作戦で行こう。おれの声が裏返らなければいける、いける。もしダメなら「病院の緊急患者搬入口に車が突入しました」というニュースが全国に流れるだけである。

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