サプライズとはなにか
母の姉、おれにとっておばに当たる人とその一家を車に乗せ、病院へと向かった。
おばにだけでも母の顔を見せてあげたかったのである。
昨日、おばと電話で話していた折、「やっぱりこの先、行けるかどうか分からないから」などと弱気なことを言っていたが、徐々に何かが芽生えたらしく「会えなくてもいいから病院に連れて行ってくれ」と宣言するまでにさして時間はかからなかった。
数年前からおばはパーキンソン病を患っている。病名だけはよく聞くのだけれど、具体的にその病がどういった症状に苦しめられるのか分からない。もう病気について調べるのはいやなのだ。なので最初に聞いておいた。
「何が辛いのか分からないから、辛かったらすぐに言ってくれ。行き先はどうせ病院だから」
病人の付き添いが多いせいか雑な聞き方にはなるが、持病のことを丁寧に聞いても仕方がないのである。
結果何事もなく病院へ到着。歩くのがしんどそうなおばを車椅子に乗せ、エレベーターホールへ。
いつものようにナースセンターで「すんまへん、ちいと顔見れますかね?」とお願いしたところ、「ちょうど車椅子に乗るところだったんですよ」と快諾してくれた。ここらへんのやりとりはゆるいが、もしかしたら毎日チョロチョロと顔を出している効果があるのかもしれない。
廊下の奥から車椅子で近づいてくる母の表情が明るくなった。姉が来るとは一言も伝えていないので、ちょっとしたサプライズなのである。3メートルごしの老姉妹の会話を眺めていると、看護師が小声で話しかけてきた。
「明日のご予定はいかがですか。先生から今後のお話があります」
何時でも大丈夫ですと答える。どうせ何も言われなくても明日の8月14日は病院に顔を出す予定だったのだ。母の誕生日だからである。
例年ならば寿司を取っていた。だが今年は食べるものは論外である。当たり前だ。もしナースセンターの前でガハハと風呂敷広げて出前の寿司などつまもうものなら無言で鎮静剤をぶちこまれてもおかしくない。生花も病人には良くないと聞く。
なら何が良いのかと考えているところなのではあるが、これは明日までの宿題にしよう。
もちろん母に対しては、明日が誕生日だということを覚えていないふりをしている。嬉しい出来事は突然起きた方が良いに決まってるのである。
母を担当してくれている看護師さんが、面会終了を知らせに来た。姉を見て「お姉さんですか?」と母に聞いている。
「はい、そうです」
「良かったですね。明日が誕生日だから来てくれたのかしら?」
「すいません黙っててもらえますか」
言いかけた。さすが毎日カルテを見ている看護師。誕生日は把握済みだったか。
明日の母の誕生日、無理だろうけどいい話が聞けると嬉しいんだけどな。
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