問題ステッカー

 車にステッカーを貼れない。趣味がダダ漏れになっていて気恥ずかしいからだ。自分の好みをわざわざ世の中に知らしめたくない。もし趣味や性癖、運転の傾向を車の外壁に表示する法案が可決されそうになったら、プラカード掲げて国会議事堂の前をジグザグに走り回る。


 だが今年の4月頃からステッカーを貼るようになった。車椅子ステッカーである。車を運転する機会が増えてきたのがその頃だ。普段の買い物以外にも病院や市役所といったところにチョロチョロと毎日のように行っていた。


 実際に母が長期入院する7月の下旬まで、トランクに車椅子を積み込み、病院内はそれで移動していた。なので車に車椅子ステッカーを貼り付けておく正当な理由があった。入院している今はもちろん外している。


 その頃に初めて意識したことがある。駐車場内の福祉車両スペースの位置だ。車椅子マークが描かれているそのスペースは一番停めやすい位置にあり、基本的には目的の建物に最も近い場所に設置されている。


 通院していた時はそこに停めていたが、今は使わない。ただ単にトランクに車椅子が積んであるだけであって、おれが車椅子に乗るわけではないからだ。


 そういう場所に車椅子ステッカー付きのSUVがしばしば停まっている。一番福祉からかけはなれた車種である。車高が高いので足が動かない人にとっては極めて乗りづらい。助手席が動くような福祉仕様には到底見えないのだが、けど車椅子ステッカーは貼ってある。


 どんな奴が乗ってるのか確認しよう、とは思わないのでただの疑問である。最初に言ったように、車に乗る機会が増えている。走っていてもどこかに停めていても、車椅子ステッカーをつけている車をやたら見かけることに気づいた。多いのは黒いSUVかミニバン。すごいのになると「BABY IN A CAR」と一緒に貼り付けている。あわせ技でベビーカーということになるのだろうか。



 日中、車で運送業務をしている兄に聞いてみた。


「車椅子マークを貼り付けるのが最近ナウいのか」

「福祉スペースに停めたい自分勝手な奴が付けてるだけ」


 根拠があるのかないのか分からないが、言い切った。兄は続ける。


「駐車場から納品する時、なるべく建物の近くに停めるんだけど、福祉スペースの近くだから分かる。だいたい健常者が降りてくるし、だいたいSUVだし、だいたい一時停止もしないカスで運転が異様に下手かつ自分の移動のみを優先させる虫けらのような犯罪者予備軍」


 もちろん全員ではないのだろう。なので3回も「だいたい」と連呼して、というかさせている。というか最後の方はほとんどおれの感想である。ただ、だいたい健常者が降りてくるということは言っていた。


 雑にまとめると、「停めやすい位置に停めたいから車椅子ステッカー貼っておこう」という輩が一定数いるっぽい。で、そういう他人の迷惑を考えない人は世の中に自分の趣味をアピールしたい人種と重なるらしく、水曜どうだろうとか江沢民とかE.HADAKAとかと並べて貼るものだからねじれが生まれる。手短には言い切れないが身勝手な権利ばかり主張していると、今はどこでも買える車椅子ステッカーすら支給制になるだろう。


 それを感じさせるものが手元にある。3年前は「介護保険 要介護認定・要支援認定結果通知書」の中に入っていなかった「介護マーク」のお知らせだ。これをもらうには役所へ行って被保険者の氏名と被保険者番号等を提示しなければならない。「悪用されることを防ぐため」とも書いてあるので、もしかしたら既に問題になっていたのかもしれない。


 なので今後、介護マークを付けた車以外は福祉スペースに停めることができなくなる可能性が無きにしもあらず。善意に割り込んでくる人間が思ったよりも多いらしいので、仕方がないとしか言いようがない。


 以上。

 20年程前、ジミ・ヘンドリクス等から受けた影響を隠しきれず、自分の車にピースマークのステッカーをペッタペタ貼っていたことを思い出して口がカラカラに乾いてきた、そんな8月半ばの昼下がりであります。

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