いくつかのルートの提示
今日からますます面会は厳しくなり、母とは窓越しに会うことしかできない。まだ話す声はしっかりしている。右腕も上がる。昨日来たのが誰なのか聞きたかったが、そこまで細かい質問は理解できないようだ。2、3分ほどで母は病室へ戻らされた。
本人不在でおれと兄が病院に呼ばれたということは、母の状態がかなり悪いものであるということを示している。
狭い部屋に通され、椅子を勧められた。
脳外科の医者は予定通りの13時に、硬い表情で入室してきた。モニターには脳のCT写真が映し出される。
「ほぼ、脳腫瘍はまだあります。先月から比べると1センチ大きくなっていますので、壊死後の状態ではないでしょう」
想像しうる中で最悪の答えだった。要はまだ脳腫瘍が活発に活動しているということだ。おれが見ても分かるほど脳の腫瘍は大きくなっている。
下向きになったおれの首が戻るのをみて、医者は話を続ける。
「今後の生活について、いくつかの方法を考えました」
1、再び別の市の病院で放射線治療を行う。できるかどうかは先方の医者の診断による。
2、開頭手術。これを行うと腫瘍は取り除けるが、恐らく寝たきりになる。
3、恐らく三ヶ月後には昏睡状態になるので、痛みを無くす末期治療。つまりホスピスへの転院。
4、なんとかがんばって最期は家で面倒をみる。
喉がカラカラになっているのが分かる。放射線治療を、と言おうとしたが何かがつかえて出てこない。
兄が代わりに「放射線治療以外はないですね」と応えた。
「私もまずはそれがいいと思います。治療が行えるかどうかはまだわかりませんが……」
医者は言った。
医者からの話が終わり、病院への紹介状を待っている間、兄とボソボソと話した。
誰にどこまで話しておくか、父にはどのように伝えるか、などなど。
今おれがこんな日記を書いているのは、もちろん家族の誰も知らない。もし知られたら激怒されるだろうしバチが当たる。
けどそれでも、ここにしか吐き出す場所がないのだ。考えを整理し、感情を極力抑えるには誰かに説明するという行動がおれにとっては必要なのだ。これは誰の為でもなく、ただひとえに自分の為のみの行動だ。
病院から帰って洗濯物を取り込み、まずはこの日記を書いている。思ったことを書き留めておく為に。考えを整理する為に。また、母という大事な存在を忘れない為に。自分でも行動がおかしいなとは思うけど、これがおれにとって最善の手法なのかもしれない。ある人はそれがカラオケだったり、またある人はジョギングだったりするのかもしれない。
まもなく父が帰ってくる。それまでに顔を洗っておこう。食事の支度もしなくては。
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