休ませろ、そろそろ
「後期高齢者医療高額療養費支給申請書」なるものが市から届いた。一見して中国語かと勘違いしたが、どうやらそうではないらしい。横文字ばかり使うのもどうかと思うが、これだと息継ぎをする場所がわからない。
もう少し優しく書いてくれてもいいんじゃないか。
例えば「後期高齢者の高額医療費が戻ってきます!!」とか。うん、ダメだ。途端に過払い金相談事務所のようなうさん臭さが漂ってきた。
この後期高齢者医療高額療養費支給申請書、早い話が母の入院費を少しだけ返してやるぞ、ありがたく思えというお知らせである。最初の入院の時だから8万円くらいかかったが、この申請で4千円返ってくるらしい。ありがたいことである。わずか5%でもありがたいこととして受け止めねばなるまい。めんどくさいが記入して持っていくことにしよう。
で。
それとは別に両親のマイナンバーカードの「電子証明書の更新手続き」も届いた。どうしてもマイナンバーに携わるやつの考えが理解できない。電子証明書の更新手続きというからパソコンでできるかと思いきや、市役所の窓口まで来いと。
一応ね、一応マイナンバー総合フリーダイヤルというところに電話して聴いてみたんですよ。感想を言ったわけです。
「あの、電子証明書というのを使った時はありませんが、電子証明書ならWEB上で処理できないと意味ないんじゃないですか」
「そうですか」
「ここで言っても仕方がないかもしれませんが、なんかおかしくないですか」
「そうですか」
担当者の「そんなこと言われても……」という顔が脳裏に浮かんだが、別にからんだり怒ったりしているわけではない。もちろん酔っ払ってもいない。ただ単に、ひたすら単純に当たり前の問題を口にしただけなのだ。
なお、両親はどちらも外出できないので、これも代理人としておれが行かなければならない。回答書というものと委任状というものに名前書いたりハンコ押したりしなければならないのだけど、ここの時点でもう不可能になってきた。
以前書いたが、父はハンコを15個くらい持っていて、どれがどこのハンコか自分でもわからなくなっているのだ。これは認知症だとか脳梗塞とかは関係なく、20年前にはすでにこの状態になっていた。注意をしても聞かなかったので致し方あるまい。
だから当然こちらも分からない。困ったなと途方に暮れたが、おれの頭の真上に電球が灯った。
「5年間、ただの一度も使わなかったどころか、存在すら知らなかったものを更新する必要があるか」
ねぇのである。全くもってみじんたりとも必要ねぇのである。ついでにいうとパスワードも書かなければならないが、絶対二人共忘れている。
そもそも、いつ市役所に行くかという問題がある。両親ともにいない日というのは、父がショートステイに行き母が入院している明日しかないのである。前回休んだのが同じ状況の6月末。こんなことで半日潰してたまるか。
一般常識なのでわざわざ前フリする必要はないが、昨日はプロレスの神様カール・ゴッチの命日である。彼が遺した言葉に
「never lie / cheat / quit(嘘つくな、ズルするな、逃げるな)」
という素晴らしいものがある。いずれも胸に響くが、すまん、おれは逃げる。マイナンバーカードの電子証明書という無意味な存在の、無意味な更新からは脇目もふらずに逃げるのである。
一月のうち一日くらいは解放させろ、休ませろ、眠らせろ。
「release / rest / sleep」
おれが遺すとしたらこんな言葉になるのだろうが、誰がどの角度から見てもダメ人間のたわごとである。
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