誰が悪いわけでないけれど

 非常に母の具合が悪い。今朝も強い右手の麻痺が見受けられたので、病院へ運んでCTを撮ってもらった。具体的にいうと、お箸やボールペンを落としまくったのだ。これは脳の良くない状態の前兆なので、もしお目通しくださった方や親御さん、友人知人にこの症状が起きたら速やかに病院へ相談することをお勧めする。


 だいたいこうなると母は引き付けを起こす可能性が高まるので、外科の医者に「入院させてもらえないか」と切り出した。普段担当してくれている先生は休みだった。


「今はまだ薬で経過を見ているところなので、入院はできないですね」


 医者はむべもなく言い放ち、続ける。


「入院というよりは施設に入れるかどうかという問題ではないでしょうか」


 その提案はあなた方が却下したのでは。つまり


「けど、この病気で受け入れるリハビリ病院は周辺にない、と言われましたが」


 というおれの苦々しい反論に繋がる。


「私は担当医ではないので、そこはわかりませんが」


 CTを見ながら医者は話をそらし、脳神経内科への診察を勧められた。脳神経外科は手術日なので外来診察をしていないのである。


 脳神経内科へ。

 ここで腫瘍の進行を知ることになる。初めて見る医者なので、一から説明した。


「母はこうなると引き付けを起こしやすくなるので、入院して様子見をするわけにはいかないか」

「それならば診察を来週に早めましょう」


 普段ならわかりました、で終わらせる。医学的知識もないし、必要以上に敬意を払うこともない。言われたことに従うのみだ。ただ、事情が事情である。


「それ以外に何もできないんですか」

「だから診察を早めるって言ってるじゃないですか」

「薬の量を増やすとかは」

「それは来週の診察の時に言われるでしょう」


 じゃあ雨の中お前のとこに来た意味ねえじゃねえかと罵声が飛び出そうになったが、ただの八つ当たりだということに気付いて退室した。


 どうやらこれでもかなり最大限に融通を利かせてくれているらしい。わからんが。CT撮影に加え外科と脳神経内科に相談し、午前中に終わるとは思わなかった。


 なんだか毎日病院に行っているが、日に日に母の足取りが悪くなっている。家の玄関には3段ほどの階段があるが、そこを登るまでに5分以上かかり出した。抱え上げてやろうかと思うが、本人が拒否する。

 長引く梅雨空とリンクするように、我が家の困難もなかなか終わりが見えない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る