車椅子購入の儀

車椅子を買った。すでに室内で使っているが、母が歩けなくなったので病院内の移動にも必要だったのだ。今使っているものをわざわざ車に積み込むのは大変にめんどくさかったし、給付金でふところが人肌程度に暖まっている今、買うしかなかろうという冷静で的確な判断が下されたわけである。


リースにするか迷ったが、めんどくささが勝った。色んな書類にサインしなければならなくなるし、毎月の支払いも増える。給付金というあぶく銭は使ってなんぼなのだ。


さらっと重要なことを告白したが、母は今、エコノミー症候群によって足が倍くらいの太さまでにむくんでしまっている。この病気のダメなところは、名前がカジュアル過ぎるところだ。血栓が心臓に至れば死ぬし、肺に近づいても良くない。名前とは裏腹に大変危険な状態なのであるが、脳腫瘍やガン、糖尿病など様々なものが上乗せされすぎて、毎日わけがわからないくらい病院や市役所を行き来している。


足の症状は、まず外科に相談した。すると尿を出しやすくする薬を処方された。尿で水分を排出してしまおうというわけだ。

だがこの薬は失敗だった。二度飲んで二度トイレに間に合わなかったのだ。これが今後も続くとしんどい。母は泣きながら侘びていたが、薬のせいなので気にするなとしか言いようがない。


次に糖尿病専門医に聞いてみた。


「ふくらはぎの筋肉をつけるしかない」


まっとうな進言である。それには立ち上がってどこかにつかまり、つま先立ちをする必要があるのだが、全てのことがスムーズに行えないのでやはり補助は必要。立ち上がらせ、柱につかまらせ、後ろで支えるのだ。おれも大変だが、やはり今は母の方が大変なのでがんばってもらうとする。


話が前後するが、外科の診察の最後に言われた言葉が胸につかえている。


「大腸から脳にガンが転移したので、その間の胃や肺にも転移しているかもしれない。来月はMRIを撮りましょう」


多分この言葉は、来月のMRI終了まで飲み込むことはできないのだろうなと感じている。

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