突発性難聴、ニラ玉風味

 最近、腰痛と耳鳴りがちょっとしんどい。最近は雨が多いので腰痛はまだわかる。だが耳鳴りは今までに経験がない。


 父を寝かしつけ、一番空いているであろう時間を見計らって耳鼻科へ行った。受付で耳鳴りでごわすと伝えたところ、待合室で待てと言われた。

 ここで問題発生。人が多い。顔が赤い人もいる。なので、


「すまんが外で待ち申す。ストーカーの地縛霊みたく窓の外からそっちを凝視しておりますので、順番が来たら手招きしていただいてよろしいか」


 と伝えた。すると


「いえ、待合室で待っていてください。声の届く範囲に」


 と返された。なのでよろしくおねがいしますと伝え、外で待つ。

 仕方がない。受付は受付の役割がある。看護師との橋渡しをする役割は担っていない。けど悪いが、自分を守るため外で待つことにした。

 いつかこのやりとりが笑えるようになればいいのだが、と思う。数年後の自分の為に記載しておこう。この年はコロナでみんなが困った年。


 で、おれは本当にストーカーの地縛霊よろしく受付嬢を凝視していた。呼びに来てもらうのはさすがに申し訳ないからであるが、こういう時に加減ができないのが自分の悪いところであると認識している。認識はしているが改めることはしない。なぜならば改めることができるのならとっくに改めているからであり、もはやこれは諦めに近い。


 受付嬢が手招きをする。おれは顔面の筋肉を笑顔のかたちに歪めつつ手を振ってそれに応じ、病院内へ入る。マスクをしているからオーバーアクションでないと伝わりにくい。さながらサイコホラー映画のワンシーンだ。


 診察室にて、耳鳴りがひどいのです、と伝えた。医者は言う。


「何か、ここ最近、強いストレスとか感じましたか」

「ありすぎて見当がつきませんです、はい」

「では聴力検査を」


 狭いせっかん部屋のような場所に閉じ込められ、ヘッドフォンを装着させられる。音が聴こえたらボタンを押す、例のやつだ。5分ほどの検査ののち、再び診察室へ。


「恐らく、突発性難聴ですね」


 医者はテキトーな診断を下した。


 いや、悪気はないのだが、突発性難聴って診断は便利すぎないだろうか。心療内科の医師が「恐らく、自律神経ですね」と診断を下すのと似ている。幸いなことにまだ心療内科に行ったことはないが、なにかそんな気がする。夕飯のメニューを考える時に「今日の夕飯もニラ玉でいいか、楽だし。毎週作るけど、別にいいか。うまいし」と判断する自分と同じ匂いを感じるのである。


 すなわち、合理化、簡潔化。気合でなんとかなるもの。整理整頓して一番とりやすい位置に置いてあるもの。それがニラ玉であり突発性難聴なのだ。言い切った、言い切ってやった。調理師免許も医師の資格も当然もってないおれが言い切ってやった。


 出された薬は4種類。一番強いステロイド剤は初日は3錠、次の日は2錠、また次の日は1錠と厳粛に量が定められている。

 その薬を出された時の感想を2種類上げておく。どっちが正直な感想でしょうかクイズ。


 ア、「気合で治るものを、薬の出し方でさも病気みたいな演出しやがって」


 イ、「薬の飲み方を指定されるなんて、うわー、大変なことになったな」



 正解はア、アタマオカシイのアである。なんとかしてくれと病院に行った挙げ句、専門の医師の言うことを信用しないのならば、一体何しに行ったのだろうか。頭の花が満開となった見事な基地外としか言い表しようがない。


 薬は飲んでいない。なぜかというと、痛風の気配が漂ってきているからである。手とか足とかにちょっと違和感。もしかしたら腰もそのせいかもしれない。薬の知識がないから併用していいかどうかが分からない。

 もし本格的に痛風の発作が出たらキーボードなんて触れないので、ツイッターに一言だけ「キャーン」と断末魔を上げておきます。

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