困難からは距離をとれ
日曜日は休日。
世界を作ったドエラいおじさんも7日目には休んだので、
24時間営業のコンビニスタイルで疲れと苛立ちを溜めている毎日であるが、休日の兄が役割を変わってくれるのだ。
とはいえ、兄は包丁が使えないので食事はおれが作らなくてはならない。そんなもの、午前中に家族全員分の昼・夕食を用意しておけばいいので楽勝である。
ここから少し真面目で、役に立つ話。題して「困難からは距離をとれ」。
一週間に一度必ず休む、というのは自発的に決めたことではない。1年と少し前、父の退院時に、ケアマネージャーさんや介護道具の業者の方が口を揃えてアドバイスしてくれたのだ。
一級障害者で病気持ち、さらにボケ始めの老人の介護をするには、それなりの覚悟がいる。普通に働くことはできないし、外出もままならない。何かに集中して打ち込むということが、極めて困難になる。
当然絶望を感じることもあるし、ふさぎ込むことも予想され、その末に父を憎む可能性もある。
不安が顔に出ていたのだろう、ケアマネさんが声をかけてくれた。
「日曜日だけは休まないとダメですよ。お兄さんもいらっしゃるじゃないですか」
「しかしそうすると兄の休みは」
「それは気にしてはいけません。分担する、と決めてください」
次いで介護道具の業者の方が、満面の営業スマイルを浮かべながら言った。
「何より、なるべく顔を合わせないことです。お父様がいらっしゃるのが一階ですよね。賢三さんの部屋がお二階でしたら、普段はそちらにいてください」
「30分に一度様子を見に行く、といった感じですか?」
「いえ、そこはもっとこまめに。そしてハサミやカッターといった危ないものは、お父様の手の届かないところへ」
それぞれのアドバイスの内容が、体験してしまったであろう地獄を想像させる。わかりました、と言わざるを得ない静かな迫力に気圧された。
以上のような理由で日曜日は休み、と決めている。
もしかしたら、お目通し頂いた方にも似たような状況が襲いかかるかもしれない。そんな時は
「困難からは距離をとれ」。
この言葉を思い出して頂ければ、と切に思う。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1月後半の日曜日の朝、つまり介護者の休日。食事を作っている時トイレから悲鳴が。
ぐわーっ
父の声ではない。兄だ。紙を破って手にうんこが付いたのだろう。よくある。まあまあよくある。慌てない。介護者は慌てない。こちらがヘルプに行けばいいのだ。
だが様子がおかしい。兄が中腰のまま固まっている。痛みに震えるこの様子は、おれも経験がある。
GIKKURI-GOSHI!!
ぎっくり腰。身の回りで数人の被害者がいる。
元同僚は居酒屋で飲んでいて、帰ろうと立ち上がった時にそのまま星になった。またある者は、パチンコ台に「レバーを引け!」と言われ、命じられるがままに思いっきり引いた衝撃で帰らぬ人となり、おれはというと夏場、冷水シャワーを浴びながら四つん這いで風呂掃除をしていたところ起き上がれず、シメられる寸前のブタのような姿勢で断末魔を上げていた。
兄はというと、父の尻を拭くための紙を左手に持ったまま、父の顔の横の壁に右手を付いていた。死ぬ間際の走馬灯にカットインしてくることが確定するほどの爆発的にヒドい絵面である。「この世の醜さの結晶」の真髄のみをていねいにかき集めたかのような壁ドンを終わらせるため、兄に声をかける。
「ゆっくり、ゆっくり後ろに下がれ」
足を上げず、そーっと後ずさりをする兄がバランスを欠いた。父が兄を押しのけながら大声を出す。
「早くどけ! 何やってんだ!」
まあ、こういう人間の介護をしています。今更驚きはしない。
最近、困難しかないので、いろいろなバタバタに慣れてきた。諦めている、とも言う。休みの日曜日に要介護者が一人増えただけと思えばなんてことはない。ただ、日曜日なので病院がやっていないことは頭を抱える問題であった。
先程言った「困難からは距離をとる」ことは意外と難しい。
そんな時は、開き直ってがんばるしかない。水際はまさにここ!
開けた月曜日、兄にはタクシーで病院に行ってもらった。車で送りたいところではあるが、両親を置いて出るのは不可能。
そんなこんなで2週間ほど休みがない状況だったが、今日は休み! 休むといったら休む!
午前中に昼食と夕飯作って、午後は母の見舞いに行くだけ! 疲れが溜まっているせいか、体がきしむ!
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