介護者の一日の流れ
「介護者」。
かいごもの、と読む。
裏切り者とか卑怯者と同じような語感ではあるが、おれは家の中の自分をこう位置づけている。
糖尿病持ちで左半身不随の1級障害者をいかにして介護しているかをご紹介したい。
だが大半はスルーされたし。極ごく稀に役に立つ情報が転がっているかもしれない。
介護者の起椅子時間は6時45分。基本的に起床ではない。その理由は後半で記す。
戸籍上、実父にあたる石男の朝食が7時30分。それまでに朝食の準備を済ませ、7時10分に起こす。
なぜそんなに早く起こすかというと、全身にかゆみ止めの軟膏を塗るためだ。
この80歳児は、起きたらまず「かゆい、かゆい」と連呼する。病院から支給されたかゆみ止めも本人に言わせれば全く効かないらしい。とはいえアンテベートといった強めの薬もブレンドされているので効いていないはずはない。
頭、顔、Tシャツをめくって背中と両腕。
「寒いから早くしろ」と言われても我慢する。
最初は殴ろうかと思ったが、今はそんな気が起きない。
ズボンと靴下を脱がして塗布を続ける。最後にリハビリパンツ(使い捨てのブリーフ)が汚れていないかチェックし、汚れていたら履き替えさせる。この際、奴の決め台詞は
「お父さん(自分のこと)が一番大変なんだから」
である。「介護させてやっている」という意識を隠す気もない。
なお、この間、父は文句しか言わず、おれは一言も口を効かない。
めんどくせえのである。喋っても意味がないので、ひたすらめんどくせえのである。
手で払う仕草をして寝返りをさせ、剥き出しのケツを叩いてもう一度反転させる。
この辺だけを全うに読むと「虐待だ」と思われる恐れがあるが、力を入れて叩いているわけではない。
この作業が終わると朝食になるが、その前に血糖値測定。
朝は人差し指、昼は中指、夜は薬指から採血する、と決めておけば皮膚のダメージは少なくて済む。
パブロフの犬よろしく、おれが指に穴を開ける器具を持つと、時間に応じて該当する指を無言で突き出すようになった。
よって昼はかなり腹が立つ。
同じように、インシュリンを打つときも朝は左脇腹、昼正面、夜右側と決めておくと良い。
腹に注射を打つことに最初は抵抗を覚えたが、3回ほどやれば慣れる。
血糖値によって主食の量は変えるが、だいたい食パンなら3分の2、白米なら0.4合ほどか。
腎臓が悪いので肉や魚といったタンパク質は控えめに。
野菜系のおかずは冷凍食品でも良いし、前日の作りおきでも良い。
便利なのは鶏卵だ。栄養価も高いし見栄えも良い。オムレツを作るときも塩を入れず、コショーで味をつける。チーズやツナ缶は血糖値を上げる可能性は低いので、時々混ぜる。
この食生活を2ヶ月続けたら、血液検査の結果が抜群に良くなり、医者が驚いていた。
その後の1年も経過は良好。
試しに、自炊をなさる方はオムレツを焼く時、塩を入れずにコショーのみで味付けをして頂きたい。
それが美味いかどうかは置いておく。
置いておけるものか置いていいものなのかはわからないが、置いておく。
チーズとかツナ缶が入っていればそれだけで塩味がつく。料理は食うか食われるか、である。
トイレの問題。
これは仕方がないと割り切るしか無い。
介護職に就いて、他人の排泄の処理をする人たちは、本当に偉いと思う。
我が家の場合、まだ父だから抵抗なくできる。
こちらの食事時でもお構いなしに
問題は約3時間おきに始まる「かゆいかゆい」である。
蒸したタオルで体を拭き、乾いたタオルで水分を払う。
この作業をしている時に言われた言葉を忘れることができない。
「お前は働きに行かないのか」
言われた言葉の意味が分からず5秒ほど動きを止め、まばたきを繰り返しながらゆっくりと台所へ行き、包丁を握ってキャベツを刻みだした。多分心の限界だったのだろう。
介護者の夜は早い。
就寝は20時。この時間ならば兄が帰ってくる。後を託し、24時までの休憩時間に突入。
眠るか飲むかのどっちかであるが、もうね、最近ね、飲んじゃうね。1リットルのジムビームが3日で空いたね。ガバッガバ飲んでるね。よくないね。
どうせ24時には起きるので、ヤケになっているとも言う。
24時からは父の寝室の横のリビングに降り、椅子で眠る。眠りが浅いので、父のトイレに気づいて介護ができるという素晴らしいシステム。
火・水・木は日中デイサービスがあるので、その時間を眠りに充てる。
自分の老後とか不安要素はさて置いて、眠る。
これもやはり置いておけるものか置いていいものなのかはわからないが、置いておく。
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