電車のあの子
@山氏
横に座った女の子
「ふぅ……」
ギリギリ扉が閉まる前に車内に入れた俺は、まだ空いている席に座った。
『駆け込み乗車は大変危険です、おやめくださいます様ご協力をお願いいたします』
まるで俺に言うかのように、車内アナウンスが流れる。
申し訳なさを感じつつも、俺は俯いて目を閉じた。
「……?」
何駅か過ぎた頃、俺は右肩に何か重さを感じて目が覚めた。そっちを見ると、学生服を着た女の子が俺に寄り掛かって寝ている。
俺はドキっとして少し肩を揺らした。彼女が起きる気配はない。
電車が止まり、扉が開く。俺はチラチラと女の子の様子を伺った。
女の子は目を開けたが、まだ降りる駅ではないらしく、もう一度目を閉じてしまう。
諦めて、俺は目を閉じた。しかし、横の女の子が気になって寝ることができない。
ふんわりと甘い香りがするし、寝息が聞こえて気が気ではなかった。
次の駅に着く度、起きてくれないかという気持ちと、もう少しこのままでいたいという気持ちがせめぎ合う。
俺は終点まで乗っているが、彼女はどうなんだろう。実は降りる駅を過ぎていたりしないだろうか。そんな心配までしてしまう。
彼女を起こさないようにあまり大きくは動かず、俺は携帯を取り出した。何を見るでもなく、ニュースサイトを流し見して時間を潰す。
また次の駅に着いた。電車が少し大きく揺れ、横の女の子がビクッと跳ねる。俺が女の子の方を見ると、完全に目があってしまい、彼女は顔を赤くしてまっすぐ座り直した。
もう少しあのままでもよかったのに、と少し残念に感じながらも、俺は携帯に視線を戻す。電車は次の駅へ走り出した。
少しすると、横の女の子はうとうとと船を漕ぎ出した。どうやら、そうとう疲れているらしい。すると、女の子はまたも俺の右肩に寄り掛かり、寝息を立て始めた。
俺は目を閉じ、何も考えないように意識する。意識しないようにすればするほど、彼女のことを考えて悶々としてしまう。
次の駅を越えれば、もうすぐ終点に着く。それまでの辛抱だ、と改めて俺は携帯を見た。
「……~~」
何を言っているかはわからないが、寝言が聞こえる。俺は左手で口元を抑え、ニヤけた口を隠した。周りからはおかしな奴だと思われたかもしれない。
結局彼女は次の駅でも降りることはなく、俺に寄り掛かったまま寝ていた。
終点に着き、電車が揺れて止まる。中には立って扉の前まで移動する人もいた。いつもなら俺もその中の一人だったのだが、今日は横に女の子がいて身動きが取れない。
扉が開き、乗っていた人たちは一斉に降りていく。
流石に起こさないわけにはいかず、俺は横の女の子の肩を叩いた。
「んん……」
寝ぼけた様子で女の子は目を開き、自分の状況を把握したのか、バッと音が鳴りそうな勢いで立ち上がり、俺に頭を下げた。
「す、すみません!」
小さな声でそう言って、慌てた様子でカバンを持って電車から出て行ってしまう。
俺は女の子に寄り掛かられた幸福感と、いなくなってしまった虚無感に包まれ、ゆっくり電車から降りた。
電車のあの子 @山氏 @yamauji37
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