騒乱
剣が胸に刺さったまま動こうとしない国王。
その周りでは慌ただしく戦闘が行われている。
すーっと立ち上がり自分で胸に刺さった剣を抜く。
「オレを何回刺せば気が済むんだ、セレス」
すると、国王の姿が霞みがかり煙のように晴れていく。
中からガゼルの姿が現れる。
《変身魔法》
「ガゼルなら死んでも助けてくれると信じてたよ」
「バカ言え。オレも結構大変だったんだぞ」
2人の間で懐かしい会話が交わされる。
「ガゼルっ!?アンタなんで生きてんのよ!?」
心底驚いているオリビアの声が動揺して動けなくなっている選手たちの中から飛んでくる。
「失敬な。生きてちゃダメみたいな言い方だな」
冗談まじりにオレは応える。
「あのガゼルの死体は分身ではありませんでした…。一体どうやって…」
信じられない様子で独り言のように呟くクシェル。
「殺した程度でオレは死なない」
まるで当たり前のことであるかのように応える。
「じゃあなんでアンタの死体に呼びかけた時返事してくれなかったのよ!」
「あぁ、あれ。あれはーーーーー死んだふりだ」
ぽかーんとした表情になるオリビア。
クシェルもデュランも呆れたような表情になっている。
「貴様………なぜ生きている?」
グリムがオレに訊ねる。
「あぁ、お前はあの時のマスターか。おまえの招待した地獄というのは存外つまらなくてな。こうして生き返ってしまった」
オレはセレスに連れられていった喫茶店のマスターが《変身魔法》
違和感に気づいたオレは、敵の策が成功したように見せかけたのだ。
「くそっ!!セレス、俺に《転移魔法》テレポートを使えっ。脱出する!」
グリムがセレスに逃げるように命令する。
「もうその心配はないぞ、セレス」
オレはセレスに安心するように伝える。
「お前の母親につけさせられていたネックレスは無効化して外しておいた。もうこいつらの言う事を聞く必要はない」
「な………んだと…」
グリムが驚愕のあまり固まったまま動けなくなっている。
この時点でもう敵の計画は瓦解している。
「もう終わりだ、大人しく投降したらどうだ」
オレはグリムに最終通告する。
「……こうなったら奥の手を使ってやる。見るがいい、『空間神剣イペス』」
グリムは懐から短剣を取り出した。その剣は波のようにグネグネ曲がっていて、とても普通の剣には見えない。
「時空の果てに飛ぶがいい!《空間断絶》」
グリムが地面に短剣を突き刺す。
すると周り景色がぐにゃりのねじ曲がり渦を巻くように吸い込まれる。
気がつくと真っ白な世界にオレとセレスは2人立っていた。
少し上を見上げるとグリムが短剣を持ち宙に浮いている。
「
オレは鋭く氷のような瞳でグリムを睨む。
「こうなったら、お前達だけでも道連れに殺してやる」
グリムは短剣を自分の腹に突き刺した。
頭を抱え、苦しみもがきだす。
「ウウゥゥァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
雄叫びのような咆哮をあげ、グリムの身体が黒い闇に染まっていく。
その姿は、何かに身体を乗っ取られていくように見えた。
魔力が爆発的に膨張していく。
闇色の顔にギラリと真紅の瞳が現れる。
「ーーー我ワ空間ヲ司ル神、クロノスーーー」
へー、神ね。
オレは特に何の感情も湧いてこなかった。
隣ではセレスが冷や汗を流し、身体が硬直してしまっている。
そういえば昔もいたな、なんでいるのか分からないような神が。
「で?神を宿してどうする気だグリム?」
「フハハハハハハハハハッ!!!貴様たちを今度こそ殺してやる!!!」
神の力を宿した程度でいきがっているグリム。
オレは冷たい思考で冷ややかにグリムを眺めていた。
「セレス、《転移魔法》テレポートはできるか?」
オレの声を聞いて金縛りから解けたかのようになるセレス。
「……やってみるよ」
セレスは《転移魔法》テレポートを使いこの場から消える。
しかしすぐに同じ場所に姿を現した。
「無駄だ。この場所は世界から完全に隔離された空間。《転移魔法》テレポートごときでこの空間から逃れることはできぬ」
言葉遣いも偉そうになっている。
「神の力を手に入れた程度でいきがるなよグリム。器が知れるぞ」
グリムが下卑た笑みでニヤリと笑う。
「この力を手に入れた俺に勝てるものならやってみよ」
調子に乗るのはいいが、この辺で身の程を教えてやらないとな。
オレは手振りでセレスを下がらせる。
「喜べ。特別にオレがちょっと本気で遊んでやろう」
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