接戦の前
魔法競技会三日目、新人戦は優勝で終わり、残るは本戦のみ。
キースはお見舞いのためにレイラのもとに来ていた。
「どうだ?怪我の調子は?」
「もう大丈夫そうです。普通の日常生活はおくれるぐらい回復しました。ご心配をおかけして申し訳ありません…」
レイラは慕っているキースに心配をかけたことを心苦しく思っていた。
「気にするな。それよりも二日目の新人戦はお前のような時の事件がなくて何よりだ。おかげで今はウチが一位だ」
レイラは自分がゴーレムにリンチにされたことを事故ではなく事件と言ったことに気がかりを覚えた。
「事故ではなく事件…ですか…?」
そのことをキースに訊ねる。
「俺は事件だと思っている。だが、あれ以降何も事故は起こっていない。もしかしたら俺の気のせいかもしれないから気にしないでくれ」
気にするな、と言われても気にならないはずがない。
レイラは自分自身に起きたことなのだから。
それでも、その疑問は一旦棚上げしておくことにした。
「分かりました。気にしないようにしておきます」
「それじゃあ俺は行くからな」
キースはレイラに一声かけて病室を出た。
次はキースが出場するバトル・ロワイヤルだ。控え室に向かうべく、キースは廊下を歩く。
「よぉ、久しぶりだなキース」
後ろから声をかけられる。
振り向くとアムステラス魔法学園の制服を着た男が立っていた。
「誰かと思えばグリム・ラースか」
男の名はグリム・ラース。アムステラス魔法学園のエースでよくキースと対戦していた相手だ。
「災難だったな。あんな事故が起こるなんて」
グリムは少し嘲るような言い方でキースに話しかける。
「その手の話ならしなくていい。会話するだけ無駄だ」
グリムはキースのことを注目しているが、キースはグリムのことをあまり気にしたことがない。
その違いが、会話の温度差を生んでいた。
「そう邪険にするなよ。魔法競技会は国王も見にくる重大イベントなんだから」
キースは国王に、さまをつけていないことが気になった。
「さまをつけろさまを。国王さまだ。ちゃんと敬え」
「いいじゃねぇか。公の場ではさまをつけるさ。だが、普通の生活にまでつけるかつけないかは俺の勝手だろ」
どうやらグリムは民主派的な考えを持っているようだ。前から少し感じていたが、今日で確信を持ったとキースは思った。
「まぁ、好きにすればいい。それよりバトル・ロワイヤルでは今年も俺と対戦だったな」
「ああ、そうだ。何も起きなければお前と対戦することになる。楽しみにしとけよ」
グリムの含みのある言い方にキースは少々疑問に思ったが、そこまで。キースはグリムの背中を見送るしかできなかった。
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