敵
「くそっ、せっかくガゼルとかいう邪魔になりそうな奴を殺せたのに、なぜ妨害工作が正常に作動しない?ちゃんと仕掛けたんだろうな?」
とある一室で男が黒髪の女に訊ねる。
「間違いなく仕掛けました。……おそらく何者かが退けているのでしょう。我々の計画に勘付いているのかもしれません」
「それは話が違うんじゃないか?確実に我々の理念が成功する計画があるというから、こちらは動き出したんだぞ」
男は少し苛立ち混じりに女に申し立てる。
「分かっていますよ。最大限サポートさせて頂きまーーーーーっ!」
その時、2人が話していた部屋の壁が崩れ、巨大な拳が2人の間に突き刺さる。
間一髪のところで2人はそれを避ける。
「なんだっ!?」
男は誰に訊いているのかわからない様子でそう口にする。
おそらく誰に訊いているわけでもないんだろう。
とっさに口から出た言葉に過ぎない。
「外部からの攻撃です!」
黒髪の女が律儀に質問に答える。
大きな拳が部屋の天井に吸い込まれるように引いていく。
大きな穴が空いた天井からは外の景色が見えている。
そこには、15メートルはありそうな巨人の姿があった。
「ゴーレムか!?」
男が確認するように口にする。
再び巨大な拳が振り下ろされる。
今度は左拳。
男を的確に狙った鋭い拳が襲う。
男はその拳を素早く躱すと懐から短剣を出し、巨人に向けて一閃する。
間合いは全然届いていないはずなのに、巨人の身体が一閃に従うように切り裂かれる。
巨人の上半身が崩れ落ちる。
崩れ落ちる様子を見て、2人はようやく落ち着きを取り戻した。
沈黙した巨人の死体は煙を上げて蒸発している。
「なんだこいつは!?」
戸惑っている男に黒髪の女が説明する。
「おそらく私たちの存在に気付き、攻撃を仕掛けてきたんでしょう」
「誰がだ?」
「分かりません。…分かりませんが、相当頭がキレる奴だと思われます。ここは移動したほうがいいと思いますが」
襲撃があった場所に長居するのは得策とはいえない。
2人はすぐに移動し始めた。
「あの巨人、ただの岩で出来たゴーレムじゃない。皮膚感まで再現されていた。誰だ、あんな悪趣味な野郎は…」
移動しながら愚痴を吐き捨てる。
「相当な実力者でしょう。私たちの居場所を掴みながら、この程度の襲撃で済ませるのは、何か理由があるのかもしれません」
「くそっ!誰かしらねぇがそいつの手のひらの上ってことか!気に食わねぇ!」
男は口調を荒げ怒りを露わにした。
アムステラス魔法学園の制服をなびかせて。
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