第26話 大事なものは無くならない

「それが現実ですよ」

 モンクは言った。その声にはハリがあった。

「何がだ? 我の何がわかる?」

 キュラの声は対象的にキンキンと耳障りな金属の擦れたような音だった。

「もう噛まれましたから」

 モンクはそう言って自身の首を撫でた。

「くそう! くそう!」

 キュラはしきりに腕を地面に叩きつけた。

 ローズには何が何だか分からず、

「どういうこと?」

 と声を漏らした。

「説明しましょう」

 モンクは両手を広げてまるでショーの主役のように歩き始めた。

「ローズさん見てください。ワタシの首を」

「え? えーと……何も無い?」

「そうなんです! サクラさんの首には痛々しい噛まれた跡が残っていました。しかしどうでしょう? 今さっき噛まれたはずのワタシに跡が無いなんておかしくありませんか?」

「確かに」

「グッ」

 キュラはうめいた。

「そうです。あなたはもう自慢の歯を持っていない。いえ、それは正確な表現ではありませんね……」

 モンクはキュラを見た。

 その場に沈黙が流れた。

「ああ! そうだ! もう歯は無いようなものだ! そのうえ無くなれば生やせるが残っていることで生やせない! ふざけた真似を」

「だ〜れもふざけてませんよ。あなたしかね!」

「クッ」

「もうこれであなたは噛むことができない。さあ、どうします? これ以上話していたらそろそろバレますよ頑張って言葉を出していることが」

 キュラの顔には次第にシワが寄った。が、

「ふほう! おほえへほほ〜」

 キュラは何やら言い残し飛び去って行った。

「……はあ」

 モンクはその場にへたりこんだ。

「大丈夫?」

 ローズは言った。

「ええ、でも緊張して疲れました」

「休んでていいよ。あと、かっこよかった」

「へへ、ありがとうございます」

 モンクは笑って目を閉じた。



 モンクが寝息を立て始めたためにローズは疲労で寝たのだと判断した。

 今は学校へ戻るためにモンクを背負い歩いている。

 色々と思うところはあるが、何よりもモンクの首が光ったのが一番気になった。水の反射に似ていたそれにはキュラのものと思われるよだれがついているのだと推測した。

 しかし、モンクを起こして聞くまでのことではなと判断し、また、詳しい話を聞きたくもないためローズは黙ってモンクを背負った。

 ローズは感謝の念でいっぱいだった。

「ありがとう」

 と眠っているモンクに話しかけた。



「さて、どういうことか説明してもらおうかな?」

 ローズは言った。

「何で? 俺っち特に何もして無いよ?」

 シンは言った。

 学校についてローズが最初に始めたのは何よりもシンの追及だった。

「ねぇ、どうしてピンチだったのに何もしてくれなかったのさ」

「それは、俺っちが手助けしたら、あれじゃん? バレちゃうじゃん?」

「何に?」

「ユリ」

「私たちがやられるのとどっちがいいの?」

「それはー……バレる」

「でしょう? じゃあ何で?」

「それは、ホラ俺っちが戦ったらズルだし、何よりも口撃魔法が使えないよ?」

 確かにシンの言葉には説得力があった。

 今の目的はローズの口撃魔法の使用による強化である。そのため、使えなかったら意味が無いというのは最もだ。

 が、イライの頭上は✕だった。

「…………」

「本当は?」

「……俺っち腕っぷしはヘッポコだから」

 今度はしっかり○だった。

「で、でも! 本題はそこじゃないだろ? もういいだろ終わったことはー」

 シンはそう言って逃げ出した。

 ローズが追いかけようとすると、

「もういいじゃない。話を先に進めましょう」

 とイライが言った。

 ローズは渋々と言った様子で引き下がり伸び伸びになっていた予定を解決するべくシンが戻ってくることを待った。



 シンが戻って来た。

「じゃあ仲間だと証明してもらおうか」

 アルデンテスは言った。

「おう。じゃあ、いいんだな」

 シンは言った。

「うん」

 ローズは言った。

 一同頷きシンの言葉を待った。

「俺っちはローズたちの仲間だ。そして、ユリのもとへ連れて行く」

 皆が息を飲んだ。

 祈るようにイライの頭上を見ると赤く輝いていたのは○だった。

「おお……」

 どこからともなく感嘆の声が漏れた。

「じゃあ行くんだな」

 シンは言った。

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