第24話 思考の海を彷徨う時

「キュラを先に倒したほうがいいですかね?」

「オウ!」

 ムリドは言った。

 イライの頭上は○が光った。

「本当にキュラを先のがいいかはわらないわ。これは本人が嘘をついてるかがわかるものだもの」

 イライは言った。

「でも、私はムリドの言葉を信じるよ」

 ローズは言った。

「よし! 行くぞ!」

「あの、待ってください」

 モンクが言った。

「何?」

「サクラさんも言ってましたがキュラは男を相手にしません」

「そんなこと言ってたっけ?」

「はい。お父さまは気絶していた。お母さまが噛まれていたと」

 ローズは言われ記憶を探ってみると確かにモンクの言うとおり父は噛まれていないのかもしれないように思われた。

 ただ、モンクには本があるそれが確証材料なのだと判断した。

「それで?」

「ここはワタシとローズさんで行くべきです」

「えぇ! 大丈夫?」

 ドアイラトは言った。

「はい。今回はワタシたちで大丈夫です。それに負傷者実質2人なので、護衛は多いに越したことは、ないはずです」

「でも」

 アルデンテスはドアイラトの肩に手を置いて首を横に振った。

「戻るのが遅かった時にあとから行けばいい。今回は彼女たちを信じよう」

「…………はい」

 ドアイラトは渋々と、いった様子で顔を立てに振った。

 ローズとモンクはシンの地図に従いキュラのもとを目指した。



「何故だ? 何故1人として来ない?」

 キュラは周囲を見渡すもヒトの気配が無かった。

 普段自分から動くことの無いキュラにとっては1秒を待つことがとてつもなく長く感じられた。

「どうしてだ? 我が失敗をしたわけがない。理由がわからない」

 キュラは思考の海をさまよっていた。

 自分の落ち度を考えずただ現状を分析しようとしていた。

 何もわからないまま時間が過ぎていた。

 目を血走らせ再度辺りを見渡すも風が吹く様子すら無く道端に生え残った植物たちもジッとしていた。

「クソッ!」

 手を頭に置き地面を向いて思考に戻る。

 しかし、そこには失敗したキュラというイメージは無かった。



「居た」

 ローズは呟いた。

 イライの時のように相手に先に気づかれる可能性を考えていたが、今回は先に気づくことができた。

「それじゃ」

「ちょっと待ってください」

 モンクは囁いた。

「何?」

「今、口撃魔法を使ってしまって大丈夫でしょうか?」

「どういうこと?」

 ローズの目にはキュラの姿がスキだらけに見えていた。

 そして、目の前の存在をモンクが否定しないことからキュラで確定だと思っていた。

「もし、あれですでにワタシたちに気づいているとしたら?」

「え!?」

「キュラは狡猾なキャラです。気づいていないフリをして近づいてくることを待つ、そして、噛みつく。まさにキュラの常套手段です」

「な、なるほど」

 ローズはモンクの言葉に首肯した。

 しかし、このままでは状況は変わらない。

 だが、

「口撃魔法なら大丈夫じゃないの?」

「いえ、油断はできません。キュラは狡猾なうえに素早いのです。口を開けていなければ音速を超えます」

「そうなんだ。ねぇ、じゃあどうするの? 口撃魔法も接近もできないんじゃ何もできないよ?」

「そうですね。裏に回りましょう。キュラもさすがに目が頭のうしろについてたりはしませんから」

「分かった」

 ローズたちが回り込もうとしたその時だった。

「ん!? 来てるじゃないか! 来てるじゃないか! やはり我は間違っていなかったぞ!」

 キュラは叫んだ。

 しかし、サクラのように影を纏っていないローズたちをそうであると見間違うほどキュラにも余裕は無かった。

「気づかれた!?」

 ローズは言った。

「仕方無いです。全力で走りましょう」

 モンクは言った。

「フハハハハ! 楽しい! 愉快だ! 愉快だ!」

 キュラは翼を広げてローズたちめがけて飛んできた。

「デカッ! はやっ!」

 しかし、キュラは敢えてギリギリ追いつかない速さを維持してジリジリと追い詰めるつもりらしかった。



 モンクは後悔していた。

 走り出し、走ることを指示した少し前のモンク自身を責めていた。

 何故、何故、何故そんなムリな可能性を選んだのか?

 それは様子を見ようと言ったモンク自身にも向けられたものだった。

 モンクは昔から本を読んで過ごすいい子だった。

 忘れ物をしない。テストの点数がいい。全て親や教師にほめられることを目的とした行動だった。

 結果が出ればほめられ、出なければほめられない。ほめられない恐怖を避けるために努力した。

 運動も自信は無いがヘタであるということはサクラと出会うまで自覚が無かった。

 今ではあらゆるものに自分以上の可能性があることを恐れていた。

 しかし、やはり本と共に過ごしてきたモンクにとって、本はアイデンティティの一部だった。

 何でも読んだが特に小説が好きだった。

 小説を読むときはモンクのようないい子に同情を寄せつつも物語の主人公に憧れていた。

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