第2話 さくら
「え・・・」
人だと思っていた化け物は俺よりも少し背が低く、さらに猫背で、頭には帽子を被っており、左手にはカバンの取っ手を持っている。
肝心のカバンは地面に接していて、長い間引きずられてきたのか土まみれに見える。
そして右手には
「な、なんなんだよこいつ」
落ち着くんだ。いま分かることはこの化け物が危険だってことだ。
手にしているカバンは人間が持っていたものだろうか。
ということはあの化け物は人間を襲うということ。
襲うだけならまだしも、あの鋭い牙は人間を喰うのだろうか。
早いところ逃げなくては。しかし悠気は逃げようと脚を動かそうとするが緊張で動かなかった。
「なんで…脚が動かない!」
立ち止まって動くことができない悠気に緑色の化け物は少しずつ近づいてくる。悠気は化け物に向けて大声で叫んだ。
「待ってくれ、俺を食っても美味しくないぞ!聞いてるのか!」
化け物に俺の言葉が通じるかは分からない。だが脚が動かない今、動くのは口だけだった。
脚は動かない。おしまいだ。
緑色の化け物は悠気の目の前までやってきて右手に持っていた棍棒を振りかざした。
悠気は力いっぱい声を振り絞った。
「助けてええええええ」
だが緑色の化け物は無反応のまま右手を振り下ろそうとする。
ああ、俺はここで死ぬのか。悠気はすべてを諦めて目をつむった。
すると遠くから女の声が聞こえた。
「『桜吹雪』!」
女の声とともに目の前に桜の花びらが舞う。
桜の花びらは目の前にいた緑色の化け物の周囲で舞い始めた。
化け物は一歩後ろに下がり、桜の花びらを振り払おうと両手を振っている。
すると化け物が手にしていたカバンが化け物の手から離れ悠気の胸元に飛んできた。
悠気は見事そのカバンを掴んだ。
「大丈夫?」
遠くから聞こえた女の声はさらに近づき、女は俺の正面に現れた。
女は言った。
「ケガはしてない?」
「あ…はい。大丈夫です」
「ここは危険だから少し下がっていなさい」
下がっていなさいと言われても脚が動かないんだけど…と思った悠気だったがさきほど緑の化け物から飛ばされて来たカバンが身体に当たったことで緊張がとけたのか脚は動いた。
悠気は一目散に後ろの木に隠れる。
女は続けて言った。
「大型の魔物がいると聞いてきたんだけど、ゴブリンとは話が違うようね」
ゴブリン。女は確かにそう言った。あの緑色の化け物はゴブリンと言うらしい。
彼女をよく見ると鎧を身にまとっていた。腰には刀を装備している。
後ろからでは顔は見えないが長い髪は風で揺らいでいる。
彼女は言った。
「でも魔物には変わりはない。ここで打ち滅ぼすのみ!」
そう言うと彼女は剣を構えた。
「『
彼女の剣が桜色に輝く。彼女はゴブリンに一直線へと駆けて行き、刀を一振り。
スパッ。
ゴブリンの身体は斜めに真っ二つに割かれ地面に落ちた。
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