異世界に飛ばされたぼくは君を守りたいと願う

色月はじめ

第1話 目覚め

自室の窓から見える一本の桜の木は満開に咲き誇り、闇夜の中、桜の木だけが街頭に照らされていた。




蒼井悠気あおいゆうき。高校三年生。高校生活は青春を謳歌おうかすると決め、髪型を変え眼鏡を外し筋トレで肉体改造して高校デビューを果たすもたいした効果はなく、気づけば高校三年生。


青い春なんて一度もないまま受験生になってしまった。


「誰だ、高校は青春の塊と言ったやつは」


しかしあれこれ文句を言っても仕方がない。明日から高校三年生。まだ時間は一年間も残されているではないか。


明日は朝早くに起きて髪の毛をセットして学校へ行こう。

悠気は枕元に置いてある時計の目覚ましをセットして眠りについた。



鳥の鳴き声が聞こえる。もう朝になったのか。

珍しく目覚まし時計が鳴るよりも前に起きたようだ。


昨日は窓を閉め忘れたのだろうか。鳥の鳴き声がいつもより大きく感じた。それにカーテンも閉め忘れてしまったのか日差しが眩しい。


悠気は今の時刻を確認するために目覚まし時計に手を伸ばす。

しかしあるはずの目覚まし時計に触れることはなく、手にはベッドや台とは異なるふさふさした感触があった。


「んー…」


手を動かせば動かすほどに慣れない肌触りに悠気は異変を感じ始めた。目を瞑ったままではいけない。悠気はおそるおそる目を開いた。


目の前にはいつもの風景があると信じて。


「え・・・」


悠気の眼前には木々が生い茂っていた。一面に広がる緑の大自然。

鳥が軽快に鳴いている。木々たちも風に揺られ気持ちよさそうだ。


ああ、これは夢だ。悠気は目を閉じてもう一度眠りにつく。

悠気は目を閉じながら考えを巡らせる。


なぜ俺はここにいる。昨日は確かに自分の部屋のベッドで眠りについたはずだ。目覚ましもセットしたことも覚えている。

誰かが俺をここに運んだのか。


いや、俺は二階にあがる階段をのぼってくる足音にも瞬時に反応するほど周囲に敏感だ。

俺の部屋に誰かが入ろうものなら、すぐに気配で起きるはず。


誰かが運んだわけではないとすると、どうやってここに来たのか。

悠気はある一つの仮説を思い浮かべた。しかしそんなことあるはずがないと考えるのをやめて落ち着きながら目を開けた。

やはり目の前は森だった。


「少し歩いて見るか」


悠気は立ち上がろうとしたが足元を見て気づいた。ベッドに寝ていた時と同じ格好だから半袖半ズボン。それに裸足のままだ。


周りに靴はない。当たり前か。

裸足のまま外を歩くのか。

小さな頃は裸足で外を駆けまわっていたが道端で犬の糞を踏んでからは必ず靴を履くようになったのに。


こうしてまた裸足で歩かなければならない状況に悠気は落胆した。

だがこのまま座り込んでいても仕方がないと起き上がる。

風は心地よかったが半袖半ズボンには少し肌寒かった。


森の中を歩いてどのくらい立ったのだろう。いまだ森から出られる気配はない。

木々たちは街路樹に生えている木から、見たこともない木まで色々な種類が生えているようだ。森から出られないとなると出ることよりも先にまず食料を調達した方がいいだろうか。


悠気は食べられそうなものがないか探しながら森を歩くようにした。途中、いかにも毒がありそうな不気味な色をしたキノコを見つけたが食べるのはやめた。実がなっている木は見当たらなかった。


一時間ほど歩いたが森からは抜け出せず、むしろ周りは薄暗く、森の奥に来てしまったかもしれないと悠気はさらに落ち込む。

「どうしよう…」

このまま森から抜け出せなかったらどうすればいいんだ。不安がよぎる。


その時、数メートル先の茂みが揺れた。人か。悠気は目を凝らして遠くを見つめる。茂みに隠れてよく見えないがどうやら人の形をしている。


動物じゃない、人だ、よかった。助かった。

悠気は人影に向かって大声を上げる。


「おーい、すいません」


悠気の声に反応したのか人影がぴたっと動きを止めた。

人影はこちらに近づいてくる。


「すいません、俺、森で迷ってしまって」


しかし人影からは反応はない。ただひたすらにこちらへと向かってくる。

そうして人影は茂みから出てきた。その人影の姿を見た悠気は驚いた。


悠気の目の前には緑色の身体をした化け物が立っていた。

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