第31話 悪魔の術


「理由を、お尋ねしてもいいですか?」


 レストさんは、優し気な笑みを浮かべて、そう尋ねてきます。それに対して私は、オリアナを挟んで、レストさんの目を真っすぐに見据えて、答えます。


「レストさんを見て、いかに私の国の魔法が遅れているのか、分かりました。これから魔法は、どんどん普及していき、なくてはならない物になっていくはずです。その時に備えて、私も魔法を使えるようになりたい。そう思ったんです」

「では、魔法を覚えたら、何に使いますか?」

「使い道は、まだハッキリとは分かりません。ですが、もし無事に国に帰れて、魔法も使えるようになれば、国を守るために行使するかもしれません。例えば、あの魔族を返り討ちにしたり、ですかね」


 さすがに、そこまでは言いすぎです。でも、それだけの力があるのなら、私は力を行使すると思います。なので、まずはそうして力を示し、お母様やツェリーナ姉様を黙らせ、私の立場を復活させる。そういう道筋も、考えられます。

 実際は、そんな事は無理ですけどね。魔法とは、元々身体に備わった魔力が、物を言います。私に、そんな才能があるとも思えません。それに、短い期間の内に、レストさんのように凄い魔法を扱えるようになるのは、不可能です。


「なるほど。よく、分かりました」

「じゃあ……!」

「はい。グレアちゃんには、魔法を教える事はできません」


 笑顔で、断られてしまいました。


「な、何でですか!?」

「んー……理由をあげるなら、グレアちゃんの目的が気に入らないから、ですかね。ああ、もちろん、私のお嫁さんになりたいとか、彼女になりたいとかというお願いでしたら、いつでも聞き入れますよ」


 体をくねらせてそういうレストさんに、私はイラだちます。レストさんは決してふざけていないようですが、魔法を教える事を拒まれた私には、ふざけているようにしか思えません。

 いや、ふざけてるように見えないのも、ちょっと問題なんですけどね。


「茶化さないでください!私の目的が気に入らないとは、どういう事ですか!」


 私は、声を荒げました。国を守るため、魔法を覚えたいという目的の、どこが気に入らないというのですか。


「そのままですよー。魔法は、誰かを殺すために使うような物であっては、いけません。グレアちゃんのように、魔族を倒すためとか、そういう事が目的で魔法を覚えようとする人は、いてはいけないんです」

「じゃあ、レストさんはそのれだけの力をもって、何のために魔法を使うというんですか……?昨夜だって、私たちを襲ってきた人を、魔法で返り討ちにしてたじゃないですか!」

「持っている力を行使する事は、自然の事です。そして私はこの力を、自分のために使っています。私は、私のためだけに、この力を行使しているんです」

「なんですか、それは……」


 呆れました。私より、遥かに身勝手な、魔法の使い道じゃないですか。こんな人が、あんなに凄い魔法が使えて、国を守ろうという目的を語った私が、魔法を使えない。こんな不公平って、ありますか。


「──魔法とは、人の寿命を縮める悪魔の術である」


 オリアナが、ふとそんな言葉を口にしました。

 私は、首を傾げます。寿命を、縮める?そんな話は、初めてききました。


「ある方の、言葉です。私も、魔法を使える身ではありませんので分かりませんが、その事が原因で、世界の魔法の発展は、著しく遅い。特に、キールファクト王国の人々の血筋では、更に魔法に関しての耐性がないのか、王国の魔術師はコロッと死んでしまう……と、ある方が仰っていました。実際、確かに王国の魔術関連の方は、若くして死んでしまう者が多すぎます」

「……それは」


 最近は、王国に魔術師そのものが少なすぎて、ハッキリとは分かりません。ですが、調べればすぐに分かる事なので、オリアナが嘘をついているとも思えない。


「むー……!」

「痛いです」


 レストさんが、頬を膨らませて、オリアナの頭をポコポコと叩きます。といっても、軽くですけどね。可愛らしい、攻撃です。


「レストさんも、その話は知っていたんですか?」

「……はい」


 私の問いかけに、オリアナを叩くのをやめて、レストさんが正直に答えました。


「魔法は、体内の生命力を著しく消耗した上で、発動しているのは、どうやら間違いなさそうです。魔術師のお偉い方は知っているでしょうけど、それで魔法を知りたいという方が減ったら、困ります。彼らは魔法を教える事で、お金を稼いでいますからね。だから、あまり広まっていないんですよ」

「……では、私の寿命を縮ませないために、魔法を教えないと?」

「あ。いえ、それは違います。本当にただ、目的が気に入らないので教えたくないな、と」

「あ、そうですかー……」


 内心、ずっこけました。それこそ、盛大に。本当に、この人は掴みどころがありません。

 でも、オリアナから寿命の話を聞いたからか、なんだかレストさんに対する怒りも、収まっちゃいました。というか、怒るのもバカらしくなってきました。

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