第12話 生まれて初めて


 牢屋に放り込まれた私とツェリーナ姉様は、対面する牢獄に、それぞれいれられました。まだ、優しい方の牢屋なので、ベッドもちゃんとあって、トイレも臭いながらも、箱型の簡易トイレなので、入れ替えることができて少しは衛生的です。

 そんな牢屋にいれられた私たちは、お姫様のドレス姿のままなので、ちょっと場違いにしか映りませんね。いえ、囚われのお姫様みたいで、コレはコレでありでしょうか。


「はぁ、最悪。フェアリーの粉で錯乱したグレアの言い分をきくとか、父上もどうかしてるわ。グレアは、悪い子。法に背き、お姫様という立場を利用して、権力を乱用してるのよ。あんたもそう思うでしょう?」

「い、いえ。自分はそのような事は……!」


 牢屋の前で、私たちを見張っている兵士に、ツェリーナ姉様が話しかけている。私を目の前にして、愚痴るとはいい度胸です。


「……ツェリーナ姉様。往生際の悪い事は、やめてください。調査が終われば、全てが明るみに出ます。貴方は、もうおしまいです」


 私は、牢獄の中の簡素なベッドに座りながら、静かな怒りを籠めて、相対するツェリーナ姉様に向かって言いました。


「随分と、偉くなったわね。あんた、私にそんな口をきける立場だった?」


 ツェリーナ姉様が、牢屋の鉄格子を掴み、私を睨みつけてくる。目を見開き、怪しく光る眼は、まともとは思えない。それに、明らかな殺意を籠められている気がするのは、気のせいでしょうか。ツェリーナ姉様は、先ほどフェアリーの粉を吸ってるので、たぶん頭のネジが飛んでいるんだと思います。


「立場とか、そんなの関係ありません。私は事実を言ったまでです」

「……ぷっ。まぁいいわ。あんたのその、余裕。見てると怒る気力も湧いてこない」

「……」


 ツェリーナ姉様は、そういうと、ベッドに横になった。随分と、おとなしい。あの粘着質なツェリーナ姉様が、私が謝罪の言葉を述べて、譲歩してあげる前に言い争いをやめるなんて、ありえません。

 この、一連の事件。始まりから、今まで、どこか違和感を感じざるを得ません。お母様の、謎の笑顔も気になります。




 それから、牢屋で放置される事一時間程でしょうか。私は、気づいたらベッドに横になり、眠ってしまっていました。気配に気が付いて起きると、牢屋の前には父上が立っていました。お母様も一緒です。


「ち、父上。失礼しました」


 私は、急いで起き上がって身だしなみを整えると、立ち上がって父上と対峙します。


「どうでしたか?フェアリーは──え?」


 その、父上の向こう。お母様が、ツェリーナ姉様がいれられていた、牢屋の鍵を開いていました。そして、開かれた扉の中から、ツェリーナ姉様が出てきて、勝ち誇ったように笑っています。お母様も、同じように私を見て、笑っています。


「お前の言ったとおりの場所を探したが、そんな物はなかった」

「う、嘘ですっ。魔法で隠された通路なので、気が付いていないだけに違いありません」

「いいや。城の魔術師を連れてみてみたが、そのような跡は全くなかった」


 一体、どこを見てきたんですか、父上は。父上らしからぬポンコツぶりに、私は内心怒り爆発ですよ。


「どこか、別の場所を見ているはずです。私が案内致しますので、ここから出してください!」

「あんた、そんな事言って、逃げるつもりじゃないでしょうね」

「逃げませんっ!」


 挑発してくるツェリーナ姉様に、私は思わず怒鳴って答えてしまいました。


「ツェリーナの言う通りです。ツェリーナに罪をなすりつけようとするような子です。何をしでかすのか分かりません。……ここまで育ててもらった恩も忘れ、このような重罪を犯すとは……ましてや、この往生際の悪さ。一体誰に似たのでしょう」


 お母様は、すっかりツェリーナ姉様の味方だ。あの、頼れるように見えたお母様は、早くもどこかへ行ってしまいました。


「……いいだろう。ただし、現状でグレアの言い分が、何一つ通っていない事を鑑みて、枷は付けさせてもらう」

「構いません」


 私は、即答しました。私が案内して、現場を見せれば一発で外してもらえますからね。

 私は、牢屋から出されると、手錠を付けられて、まるで罪人のような状態で、父上や数人の兵士。お母様とツェリーナ姉様を案内し、地下の倉庫へとやってきます。道は、完全に覚えています。覚えておかないといけない事に関しての記憶は、凄いんですからね、私。だから、迷うことなく、倉庫室長室というプレートの掲げられた、部屋の前に辿り着くことができました。


「ここです、父上」

「……」


 父上は、黙ってその部屋の扉を開きました。そこに広がるのは、資料や本で散らかった、手狭な部屋のはず……でしたが、違いました。そこは、キレイに整理整頓された、手狭ながらもキレイな部屋がありました。部屋の左右の棚に、きちんと揃えていれられている、本達。そして、部屋の中央には立派な机が置いてあって、そこに、この部屋の主と思しき男の人が、いました。


「え……?」

「な、なんですか、国王様。まだ、何か御用ですか?」

「うむ。ちょっと失礼するぞ。ゼン」


 ゼンと呼ばれたその男は、爽やかな男でした。髭もなければ、服もきちんと着ていて、背筋なんてまっすぐです。年は、30くらい?ちょっと好みかも。じゃなくて、違うんですよ。ゼン?これが?あり得ません。

 今おきている事態に、私はここに至ってようやく、気づきました。私は、ツェリーナ姉様に、嵌められたんです。それに反論するためには、普通に反論してちゃダメでした。でも、こうなってしまえば、もう全てが手遅れです。

 私は今、生まれて初めて、自分がバカだなぁと思いました。

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