第13話 死刑


 結局、私が見て、父上に話した全ての事は、でたらめだったという結論になりました。仕方ないですよね。私が言っていた、ゼンという下品な男は存在しなくて、代わりに存在したのは爽やかなお兄さんで、魔法で隠された部屋の奥の通路もなくて、お酒臭くないし、資料も散らばっていない。何一つとして、私の証言と合っている所はなかったんですから。

 もしかしたら、本当に自分の頭が、おかしくなってしまったんじゃないかと錯覚します。でも、当然実際は違います。それくらい、ツェリーナ姉様は、周到に準備をしていたんです。

 ですが、このやり方はツェリーナ姉様らしくありません。あまりにも、技術的というか。仕組まれすぎていて、バカなツェリーナ姉様が考えたとは、思えないんです。となると、裏で協力……あるいは、指示している人物がいるはずです。

 私は、静かにお母様を睨みつけました。お母様は、決して私と目を合わせようとはしないけど、先ほどの不敵な笑みや、この周到さを考えて、お母様が一番怪しいと感じています。


「何か、申し開きはあるか、グレア」

「……いいえ。全ては、父上が見た通りです」


 私は、父上の問いに、そう答えました。これ以上は、本当に自分がみじめになるだけです。だから、黙って、今目の前にある光景を、肯定しました。


「──ですが、これだけは言っておきます。私が見て、話したことは、全て事実です。それは、妄想でもなんでもありません。全ての元凶は、ツェリーナ姉様です」

「あんた──!」


 ツェリーナ姉様が、怒って私に突っかかろうとしてきます。ですが、それよりも先に動いたのは、父上でした。父上の平手が、私の頬を打ったんです。乾いた音が響いて、すぐに、頬からじんわりと痛みが伝わってきます。

 初めて、父上に叩かれました。家族に虐められていて、そんな中でも、私に愛情を注いで育ててくれた父上が、私に対して怒りを向けたのです。


「フェアリーの粉に手を染めた者は、王族だろうと許されぬ犯罪行為だ。例え、それが私の娘であろうと、罪は罪。そして、本来は手本とならねばならぬ者として、皆に示す必要がある。よって、グレア。貴様には、死刑を言い渡す」

「っ……!」


 父上は、それだけ言うと、部屋を出ていきました。その判決を言い渡された私は、すぐに兵士に乱暴に腕を掴まれ、抵抗もしていないのに厳重に押さえつけられてしまいます。


「この愚か者を、重犯罪者の牢に、放り込んでおきなさい」

「はっ」


 お母様の指示で、私は兵士たちに、引きずられるように連れていかれます。私には、抵抗する術がありません。もう、抵抗する気力もないんですけどね。

 なんだか、全てどうでもよくなってきてしまいました。


「ちょっと待った」

「……」


 そんな、連れていかれようとする私を、兵士達に指示をして呼び止めたのは、ツェリーナ姉様だ。


「あんたには、まだ自分の言い分を証明する手が、一つだけあるはずよ。どうして、それを言わないの」

「ツェリーナ。何の事を言っているのです」

「お、お母様には、後程詳細を話します」


 どうやら、お母様は、私がフェアリーを抱いて逃げたことを、知らないみたいですね。ツェリーナ姉様の反応を見ると、あの子の居場所も、まだ分かっていないようだ。

 実を言うと、私は抱いて逃げたフェアリーの事を、黙っておいたんです。嫌な気がしたので、最後の奥の手として取っておくつもりだったんですが、ツェリーナ姉様の前でそれを話したら、あの子の身が危ないと思い、言うのをやめました。


「はて、なんの事でしょう」

「とぼけるなっ!」


 ツェリーナ姉様が、私の胸倉を掴んできます。私は腕を枷に繋がれた上、兵士に掴まれているので、全くの無抵抗です。苦しい。


「あ、ああ……もしかして、私が妄想の中で抱いて逃げた、フェアリーの事でしょうか」

「……」


 お母様の眉が、それを聞いてピクリと動いたのを、私は確認しました。やはり、お母様はフェアリーの事を知っている。私は確信しました。


「残念ながら、私の妄想なので、話しても無駄だと思います。だから、この事は私の胸の中にしまっておくか、父上だけに、直接話すようにしたいと思います」

「そんな事したって、無駄よ。今更、それだけ本当の事だったとして、誰があんたの言う事を信じると言うの。だから、今言いなさい」

「嫌、です」


 私は、ニヤリと笑いながら、ツェリーナ姉様に言いました。ささやかな、私の抵抗です。それに激昂して、振りかざされたツェリーナ姉様の手。父上と同じように、私の頬を叩くつもりのようです。


「……!」


 しかし、その手が私の頬を叩くことはありませんでした。


「よせ、ツェリーナ姉様」

「……レックス!」


 その手を止めてくれたのは、三男のレックス兄様でした。いつの間にそこにいたんでしょう。存在感がないので、気づきませんでした。


「早く、牢屋に連れていけ」

「は、はい」


 私は、レックス兄様に促された兵士に連れられて、今度こそ連れられて行きます。その様子を、ツェリーナ姉様が、悔しげに睨みつけていて、私は最後までその目を睨み返します。その向こうで、キレイなゼンが、呆然と様子を見守っていますが、どうでもいいですね。

 それにしても、もしかしてレックス兄様も、私を犯罪者と思っているんでしょうか。だとしたら、それはとても嫌で、気分が沈みます。

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