第11話 ポケットの中身


「どうしたんですか、グレア。早く、ポケットの中身を出して見せなさい」


 お母様が、私をそう促してきます。でも、私はポケットの中に突っ込み、身に覚えのない何かを取り出す勇気が、出ません。


「往生際が、悪いわよ」

「あっ……!」


 固まってしまった私に痺れを切らしたのは、ツェリーナ姉様でした。私を背後から拘束し、ポケットに突っ込んでいた手を、無理やり引っ張り出してきました。

 勢い余り、ポケットから飛び出したものが、私の手から離れます。宙を飛んで行った物は、光を反射させながら、床に打ち付けられ、1度バウンドしてから、床を転がっていきました。

 それは、小さな瓶でした。木のコルクで蓋をされた、透明な瓶です。その中身は、粉でした。


「ああ、やっぱり持ってたのね。錯乱して、そんな事も忘れちゃったの?いつも、あーんなに大事そうに持ち歩いてたじゃない。まるで、神様を崇めるみたいに」

「ち、違う……!」


 私を押さえつけているツェリーナ姉様を、私は精一杯睨みつけます。

 コレは、先ほどツェリーナ姉様について訪れた地下で、私の隙を盗んで仕組まれた物だ。恐らくは、地下で、こうやって同じように拘束された時に、仕組まれたはず。


「お母様。父上。その瓶を、確認してください」

「……あなた」

「……」


 ツェリーナ姉様に言われ、瓶を拾おうとしたお母様を、父上が制し、代わりに拾った。それから、中身をじっと見つめると、ため息を吐き、静かに頷いた。

 まだ、中身がフェアリーの粉と、確定した訳じゃありません。もしかしたら、ただの小麦粉か、砂糖かもしれない。


「間違いなく、フェアリーの粉だ。グレア。この事について、何か反論があれば、聞こう」


 そんな、私の幻想は、一瞬で打ち砕かれた。

 でも、まだ平気。まだ、大丈夫。父上は聡明な方ですし、私の話をちゃんと聞いてくれようとしてくれている。ちゃんと話せば、犯人はすぐに明るみに出ます。


「全て、ツェリーナ姉様が仕組んだ罠です。私に罪を擦り付けようと、このような仕組みまで用意し、私を嵌めようとしています」


 私を拘束している、ツェリーナ姉様の手の力が、強くなりました。ちょっと痛いけど、私は怯みません。話を続けます。


「フェアリー達は、このお城の倉庫管理室長室の奥を、恐らくは魔法の力を持つハンマーで3回叩いて現れる部屋に隠されています。それから、その部屋の主である、ゼンという男も協力者です。ツェリーナ姉様と協力し、フェアリーの粉を製造しているようでした。無精ひげの、品のなさそうな男です」

「父上。グレアは錯乱しています。そんな物、探したって無駄ですよ。全て、グレアが自分で密売人から購入した物なんですから、ある訳がないんです」


 ツェリーナ姉様が、そんな事を言い出しました。勿論、全くの嘘です。

 でも、ここで父上がツェリーナ姉様の言葉を受け入れたら、困ります。父上には、あの倉庫の惨状を確認してもらい、犯人一味を一網打尽にしてもらわないといけないんですから。


「嘘ではありません!私は、この目でハッキリと見たんです!」

「コレは、何の騒ぎだ」

「ど、どうしたの、グレア。大きな声……」

「……」


 そこへやってきたのは、マルス兄様と、サリア姉様と、レックス兄様だ。呼び出されて、駆け付けたんですね。状況を呑み込めていない彼らは、私を奇異の目で見てくる。


「グレアとツェリーナに、フェアリーの粉の製造、使用の疑義がかけられている」

「は、はぁ?私もですか!?」


 私を拘束しているツェリーナ姉様が、分かりやすく狼狽しています。父上は、あくまで中立だ。


「フェアリーの粉……本当だとしたら、重罪だぞ……!」


 マルス兄様が、何故か私だけ睨みつけてきます。話、聞いてました?ツェリーナ姉様を、忘れていますよ。


「両名の言い分を判断するため、私自らが調査に向かう。グレアとツェリーナは、調査が終わるまで牢屋に放り込んでおけ」

「そんなぁ……」

「……」


 ツェリーナ姉様は、とても嫌そうに、脱力しました。いい気味です。まぁ、私も入れられるんですけど……。

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