第3話 いいです


 そんなヤバイ国の将来ですけど、希望はまだあります。その希望とは、三男のレックス兄様です。

 レックス兄様は、茶髪の前髪の長い人です。顔が、半分隠れるくらい、長いです。髪の毛をかきあげると、オーガスト兄様に似てカッコ良いんですけど、それをあえて隠しています。寡黙で、あまり喋らない人なんですけど、兄弟の中では唯一私に良くしてくれて、私は仲がいいと思っています。色々な事を教えてくれる、良き兄なんですよ。また博識で、剣術も兄弟の中ではマルス兄様を超えて一番です。 私は、王国を継ぐのはレックス兄様がいいなと、思っています。三男では難しいかもしれないけど、じゃないとこの国、本当に潰れちゃいますよ。


「……父上」


 その、寡黙なレックス兄様が、食事の手を止めて、言葉を発した。


「どしたの」

「魔族の件。本当は、手を考えているのだろう?」

「うぅむ……」


 レックス兄様の質問に、父上は歯切れ悪く、唸った。父上にしては、珍しい反応です。いや、それにしても、レックス兄様のいう、手とはなんだろう。父上も、否定しない辺り、レックス兄様の言うとおり、何かありそうだ。


「ハッキリして、あなた。この国の、重大な危機なのだから、もったいぶる必要はありません」

「しかしなぁ……」

「何かあるのなら、言ってくれ父上!」

「……じゃあ、言うぞ?」


 マルス兄様に迫られて、父上は口を開いた。

 結局言うなら、もったいぶらず、さっさと言えよくそじじい。


「西の、カーガレウス平原を通り抜け、ウルス山脈を越えたその先の、メリウス森林奥地にある湖畔に、とある魔術師が住んでいる」

「魔術師?」


 お母様が、父上に首を傾げ、尋ねた。


「聞いた事があります。メリウスの魔女と呼ばれる、世界最強の魔術師が、そこに住んでいる、と。なんでも、大きな岩を降らせ、炎で大地を焼き尽くし、水で町を破壊し、風で城壁を吹き飛ばす事のできる、化物だとか。まぁ、さすがに誇張されているとは思いますが」


 代わりに答えたのは、マルス兄様だ。

 人の噂なんて、誇張して伝わりますからね。そんな事ができるなら、その人今頃この世界を支配してますよ。


「なるほど。そのメリウスの魔女とやらの力を借りて、魔族どもを蹴散らすという事だな」

「落ち着け、オーガスト兄。先ほども言ったが、誇張されているに違いない。魔術師一人の力を借りた所で、たかがしれている。相手は、5万の大群なのだぞ。それにオレは、魔術と言うのは信用できん。剣で戦う兵士以上に、戦力なるとは思えんのだ」


 マルス兄様は、剣しか脳のない単細胞だからなぁ。魔術が信用できないとか、一体いつの時代の考え方なのだろう。今の時代、戦争は魔術師を中心に考えた戦い方に、変わっていくはずだ。それが分かっていないんじゃ、戦場で魔法にやられちゃいますよ。炎の魔法で、焼き豚にでもされればいい。


「ですが、試す価値はある。本当に魔族たちを退けられるのなら、それでよし。無理なら、篭城するだけで、特に変わりはない。いいではないですか。やらせましょう。その、メリウスの魔女とやらに」


 お母様がそう言って、父上を見た。最終的な判断を下すのは、あくまで国王である父上だ。


「では、そうしよう。使者を送るとして……」

「相手は、世界最強の魔術師と名高いのでしょう?それでしたら、失礼のないよう、兄弟の中から一人、向かわせましょう」

「なら、オレが行こう」


 名乗り出たのは、オーガスト兄様だ。大方、相手が女なら自分の出番だ、とか思っているに違いありません。

 その考えは、ハッキリ言ってむかつきますが、でもうってつけなのは間違いない。


「行ってくれますか。オーガスト」

「お任せください、母上。このオーガスト、必ずや、魔女を連れ帰ってみせます」

「良い息子を持ち、母は嬉しいです。が、くれぐれも、身の安全には気をつけるように。王国最強の剣士を、護衛につけましょう。何かあれば、貴方の判断で、何をしても構いません。いいですね、あなた」

「……うむ」

「ありがとうございます!」


 盛り上がってるのはいいけど、5万の大群が押し寄せてくるとして、私達の軍勢にそのメリウスの魔女とやらが加わった所で、どうにもならないでしょう。いくら、魔法がこの先戦争の中心になっていくとはいえ、魔術師一人でできる事に、限りがある事は間違いない。勝てるわきゃないです。。

 それに、篭城と言っても、このお城にはハッキリとした弱点がある。最強だと信じているのは、おバカな連中だけ。父上も、本当は気付いているはずなのに、兄弟連中があまりにもおバカさんだから、その事は口にしない。自分で気付いてくれるのを、期待してるんですね。でも、残念ながら連中はドがつくバカなので、無理ですよ。

 それにしても、ヤバそうになったら、逃げる準備をしておかないといけませんね。

 ……亡国の、お姫様か。悪くないです。どこかの国に逃げ延びれば、この美貌と、亡国のお姫様というキャパシティが加わって、敵なしですよ。そして、イケメンの王子様と結婚して、末永く暮らす。いいです、いいです。

 私は心の中で盛り上がりながら、黙ってご飯を食べ続けます。その様子を、毎度の事ながら、メイドが心配そうに見つめてきている。いつも、そうなんですよね。私がご飯を食べていると、周りの視線が痛いんです。ま、美味しいから、別に良いんですけど。















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