第4話 出立式
その、次の日。
「では、行って来ます!」
「いってらっしゃい、オーガスト。いいですか、お前達。オーガストを、その命に代えてでも、守りなさい」
「はっ!」
お城の城門前では、盛大に、オーガスト兄様の出立式が行われることになった。集められたのは、父上に、お母様に、兄弟全員に加えて、お城の兵士やメイド達。およそ、300人くらい。
正直言って、こんな朝っぱらから勘弁してほしいです。眠い。
そんな見送りを前にして、白馬に乗り込んだ、オーガスト兄様。それを護衛する兵士は、この国選りすぐりの剣士達が、10名。彼等が着込んだ、お揃いの白銀の鎧は、実力者のみが身につける事を許されていて、彼等の実力を示している。
彼等は、お母様に戒められ、揃って大きな声で返事をした。その声は、力強く、とても大きく頼もしい。
「頼んだぞ、オーガスト。必ずや、メリウスの魔女の協力を、得てきてくれ」
「お任せください、父上。このオーガスト、課せられた任を、見事にこなしてみせます。行くぞ、お前達!」
どうせ、重要な役をこなして、順当に王位を継承しようとか、そんな事を考えているに違いない。このまま順当に行けば、オーガスト兄様がこの国を継ぐことになるんでしょうけど、その魂胆がだだ漏れなのが、気持ち悪いんですよ。オーガスト兄様は、女と遊んでればいいんです。しゃしゃり出てこないで欲しいです。どうせ、役立たずなんですから、役立たずは役立たずなりに、裏に潜んで迷惑がかからないようにしてほしいです。
上手い事、メリウスの魔女に殺されないかな。あるいは、道中で襲われて死ぬとか。
「オーガスト兄様、気をつけてねっ!」
馬を蹴り、歩み出したオーガスト兄様に向けて、サリア姉様が大きく、元気に手を振って見送る。
同時に、集められていた大勢の剣士達が作っていた人垣の前列が、剣を天に掲げ、道を飾る。その外側では、お城のメイド達がおじぎをして、オーガスト兄様を見送るという、一大パレードだ。
くだらない。メリウスの魔女に助けを請いに行くという、情けない事をしに行くというのに、こんなお祭り騒ぎをする意味が分かりません。
まぁ、私は昨日の内に荷物をまとめ、逃げる準備はしておいたので、成功しても失敗しても、どっちでもいいです。むしろ、失敗して皆死ねばいいと思っています。
「すぐに戻る!皆、待っていてくれ!」
可愛い妹の、サリア姉様に目を向け、勇ましく剣を掲げて応えるオーガスト兄様。
サリア姉様はサリア姉様で、王位継承の一番可能性が高い、オーガスト兄様に媚を売りまくり。保険で、脳筋のマルス兄様と、悪女のツェリーナ姉様からも可愛がられていて、抜かりはない。
私に対しての態度は、後で語るとして、レックス兄様に対してもちょっと甘えたりしてるけど、レックス兄様は上手くかわしている。どうやらレックス兄様は、サリア姉様が苦手のようです。
「いいですか。マルス。レックス。ツェリーナ。サリア。オーガストが無事に戻ってくるまでは、貴方達兄弟が、国王を支えるのです」
「言われずとも、当然です。この城、オーガスト兄が戻るまで、私が死守してみせましょう。この剣に誓い、ここに宣言いたします」
マルス兄様が腰につけているのは、この国の国宝に指名されている、剣。なんでもその昔、たった一人で竜を倒したという、伝説のドラゴンスレイヤーの称号を持つ剣士が使っていた剣だとか。
歴史には興味がないので、その剣士の名前は忘れたけど、剣は凄い。血のように赤く輝く刀身は、少し不気味。だけど、輝き、不思議なキレイさを帯びている。取っ手の部分は、竜の角で作られているみたいです。黒く、ちょっとだけ歪だけど、手で握りやすそうな、くねくねとした形をしている。溢れ出る魔力は隠せず、それでもまだ、奥底には莫大な魔力が篭もっているはず。引き出せば引き出すほど、使用者に力を与える反面、大きな力は使用者に負担が大きい。実力者であるマルス兄様でも、その力の全てを引き出すことは、不可能だ。
ところで、お母様。私の名前を出さないのは、どういう事でしょうか。あからさまな差別に、私はあきれてしまいます。でも、今更ですけどね。
と、言う訳で、用無しの私は、さっさと退散です。家族が揃うのは、ご飯の時間だけ十分です。こんな所にいつまでもいたら、息がつまって死んじゃいますよ。
「グレア」
そう思っていた私を、呼び止めた人物がいた。それは、ツェリーナ姉様だ。
振り返ると、目の前まできたと思ったら、私を見下ろして、いつもの意地悪そうな表情で、こう言った。
「話があるの。一緒に来て」
「……はい」
ツェリーナ姉様の話なんて、私にとって良い事だった事がない。できれば、断ってこの場を去りたい所だけど、そうもいかない。そんな事をしたら、お母様をはじめとした家族に白い目で見られる上に、こっぴどくしかられてしまいます。下手をしたら、しばらく牢獄にいれられかねません。
というか、過去に実際、牢獄に入れられた事があります。お母様の言いつけを破ったからという理由で、1週間ほど鎖でつながれ、真っ暗な牢獄の中で過ごしました。その時は泣いて赦しを請うフリをしましたが、内心では殺意で溢れかえっていたのを、今でも覚えています。だって、卑怯なんですよ。父上がいない時を見計らって、みんなで私を虐めてくるんです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます