第5話 狭い世界 2

 その日、山本先輩に案内されたバーは、有名な繁華街の少し奥まった道にあった。少し重そうな扉を開けると、真っ暗でムードの漂う空間が広がっていた。

「素敵なお店ですね。」

 そんな話をしながらカウンターに腰掛ける。マスターは落ち着いた雰囲気の小柄なおじさまだ。

「いらっしゃいませ。お客さんたちは初めてかな。」

 優しそうな表情で話しかけてきた。私たちは、はい、と答え一通りメニューに目を通しお互いに適当に注文をした。

「ここ紹介してくれた知り合い、すごくかっこいい人で素敵な出会いがあると思うよって言われたんだよね。」

そう先輩は言う。でも、他の席同士が話すような雰囲気ではなかった。かっこいい人だから素敵な出会いが落ちてくる事もある。少し惨めな気分になるが、素敵な空間を楽しむことにした。

ガチャ…カラカラ

 扉が開く音がした。なんとなくその方向に目を向けると、

「…あれ、」

 声を出しかけて口を閉ざした。そこにいたのは、高校時代の輝樹の親友で、今はアイドルとして世間を魅了する、小嶋浩介くんだ。彼は輝樹を芸能界に引っ張り込んだ張本人だ。

 私の飲み込んだはずの声はあちらに届いてしまっていたらしく、異様なまでの視線を感じた。

「…美和?」

 なぜか呼び捨てなのは昔から変わらない。近づいてくる雰囲気を感じる。小嶋くんに気付いて先輩がうろたえているのも横目で感じる。


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