第2話 明るい夜 1

 私にとって”宮本輝樹”の存在は切っても切り離せないものだ。振り切ったつもりの今の人生でも介入されたら逃げ切ることはしない。

「美和ちゃん、ここのデータの編集お願いしてもいい?三枝さんが急に編集データ増やしてきて。」

隣のデスクの山本先輩に話しかけられた。私は事務として都内の大手商社に勤めている。私の名前は笹沼美和。大した趣味も特技もない普通の女だ。たまに自分でも自分につまらないと思うこともある。

…ブブッ

カバンの中からバイブレーションの音がする。そろそろお昼休憩だ。

「大丈夫ですよ。そろそろ時間ですし、先にランチにしませんか?」

山本先輩はいつも一緒にご飯を食べるほどの仲だ。

 社食堂までの道のりでスマートフォンを開く。表示されていたのは”輝樹”という文字だった。予測はしていたが、少し鼓動が早くなるのを感じた。先輩と席を見つけ、荷物を追いたタイミングで少し離れた扉から外に出た。

…プルル…プルル

呼び出し音の後に大きな騒音とともに彼の声が耳に届く。

「美和!ごめん仕事中だった?」

背後から風の音が入ってくるため、大きな声で話す輝樹。

「仕事中だったけどもうランチタイム。何か用だった?」

分かっていたって毎回何の用か聞いてしまう私は天邪鬼だ。

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