第12話 スピードが命 5日目(夕)

 まるで映画を見ているようなワンシーンだった。


 風はないのに、その波で風が作られているのではないかというくらいだ。


 普通では見る事の出来ない光景が広がっていた。


 ふと思い出すのは、小さい頃に祖父が土いじりを教えてくれた。

 水とは高い所から低い所に流れるのだと。

 そこに障害物を乗せて、流す事が川をつくる基本だと。



 だけど祖父はこうもいった。川とは楽しむものなりと。

 どこにどこが流れるかを創造するのだと。


 色々な事を祖父は教えてくれたけど、その土いじりだけはとてつもなく楽しかった。


 だからどのようにすれば、どのように工夫すれば、いいのかなんてすぐに分かる。


「ウィングタイガー達は必死で穴を掘れ、水がきたら、水の中だろうと掘り続けろ、お前たちの体は4,5メートルくらいある。3メートルの奴もいるだろうけど、それだけあれば窒息死はしない、穴をほれ、掘って掘って掘りまくれ」


 ウィングタイガーたち40体が必死で川の道を掘り続ける。

 

 突如として考えられない方角の地面が抉られて川の水が氾濫した。


 その後ろでは9体のウィングタイガーが巨大石を運び上げて、移動している。

 もちろんソリを使用して、

 そこからもまたまた水が氾濫する。


 いたる所の水の氾濫、なぜわざわざ難しい事をするのか。


「お主も考えたにゃ、いたる所で氾濫させ、その川がどこに集まっていくか、それを見たいのだろうにゃ」

「はは、やっぱり魔法猫さんにはお見通しですか」


「もちろんにゃ」


 高速でウィングタイガー達が穴を掘り続けている間。

 俺様は大木の真上に登っていたる所に飛び散って勝手に道を作り上げている川たちを見ている。


 川とは生き物だ。

 まるで人間の血管のように。

 ぐねぐねと呼吸をするように。


 それでも川には限られた運命と、そして道がある。


 その道を見つけた時、それが俺様の誕生なのだ。


 そのポイント、そのかっこたる急所を狙った瞬間。


 魔法概念というスキルを覚える事により1冊のテキストが出た時があった。

 

 水魔法、火魔法、土魔法、風魔法を習得したのだが。

 火魔法はシシを倒すのに使用した。


 そして今大木からまるでモモンガのようにジャンプすると、


 そのポイントにて土魔法を発動、

 土そのものを盛り上げて、ウィングタイガーでは作れない巨大な川の道を作る。


 巨大であればそこに一時的に溜めて置く事が出来る。


 しかしある程度溜まってしまえば、また氾濫した川は移動を始める。


 ここは沢山の川の氾濫したポイントが集まる所。


 土魔法を連打で発動させる。

 ぼこぼこという音が発して。

 どどんと地面が鼓動する。


 まるで地面そのものが生きているのではないのかと、少しの恐怖を抱く。


 それでも俺様は土魔法を発動させ続ける。


 なぜ大木からジャンプして降りて俺様は無傷かというと。

 地面をまるでスポンジみたく土魔法で変換させたからでもある。


 そしてついに。


 数か所で発生していた氾濫は現在俺様がいるポイントにまるで津波のように押し寄せる。


 それは水色と茶色の大きな怪物だ。

 ぐねぐねと液体を飛ばしながら。

 まさにそれは化け物だ。


 今俺様は自然と相対しているのだと、心がわくわくしてくる。

 こんな事は現実世界では味わう事の出来ない、スリル。


 この時俺様は生きていると感じたんだ。



 思いっきりジャンプする。

 本当に数コンマという差で川の道の外に着地した。


 数コンマ後には雪崩のような川が押し寄せてきていた。

 あと少し遅れたら、体がまるで人形のようにぐちゃぐちゃになっていただろう。


 そしてこのポイントで水はどんどんと溜まっていく。


 ウィングタイガー達は移動を始める。


 次は最後のポイントで、沢山の木々が伐採された場所。

 そこに巨大な貯め池を作る。


 まだMPことマジカは100残っている。

 さっきの土魔法は結構なマジカを消費するようだ。


 俺も地面を蹴り上げて走り出した。


 森の道は、ウィングタイガー達が一番知っているだろうし、彼らに任せつつも。


 伐採した伐採地区にてグリドリーとグマドリーが貯め池を作ってくれる手はずとなっている。


 あの2体だけでは物足りないと感じてもいる。

 これだけ時間が切羽つまっているのならと。

 そこに着いてから、仲間の手が必要か判断しようとした。



 森を抜けて、伐採地区に到達した瞬間。


 俺様は感動した。


 その光景は人間に見習ってほしい事だった。


 ため池をつくるグリドリーとグマドリーの周りには無数の巨大熊たち20体がやってきていた。


 彼らは本気で穴を掘っていた。

 命を賭けているというものを感じた。


 別にゆっくりやればいいじゃんと言われそうだけど。

 

 自然とは恐ろしい物、全てが旨くいくようにセットされている時に本気でそれをやらねば、次の日は荒れるかもしれない、次の日はかんかん照りかもしれない、なら今日本気を出すしかない、まぁほとんどがテレビの知識なんだけど。



 ただ分かる事、やれる事はやれるうちに精一杯する事だ。


 俺様はグリドリー達が穴を掘り続けているのを見ていた。

 とてつもなく巨大な穴、きっと木々の根っことか、石とか、色々な不純物があっただろう。


 それでも巨大熊たちは文句を言わない。

 ひたすら掘り続けている。


「みんなそのくらいでいい、速くでろ、最後のデコレーションは任せろ」


 巨大熊達が土の中から登ってくる。

 あとはその巨大なため池の真ん中に俺様は到着していた。


 そして俺様はまるで頭の中で呪文を唱えているかのような、正確にはイメージしているのだが。


 建設スキルを発動させる訳でもなく、

 創造製造スキルを発動させるつもりでもない、


 ただすべての自然に感謝した。

 その大きな瞳を開けたのだ。



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