第6話 幽霊人間のお話 4日目
数百年前、このエアロフーバは巨大独立国家として世を騒がせていた。
エアロフーバという国はすべての差別をなくし、すべてを助けると断言した国だった。
エアロフーバはこの島にいる種族を統一する事で、別な王国からの侵略を海で守った。
大陸の方にいる差別された人々、
つまり暴力、虐待、殺人、あらゆるすべてを調停した。
犯罪を犯した人を悪人とするのではなく、そこに導いてしまった人々が原因であり、すべてを許し、すべてを理解する。
それがエアロフーバのやり方だった。
だけどそこにその思想は危険だと弾劾した人々がいた。
彼らはエアロフーバを滅ぼした。
その時に戦争に巻き込まれて死んだのが、テスであった。
外国の国の魔術師の呪いを食らったテスは死んだはずであった。
しかし呪いは半分の体を蝕み、肉体から滅ぶ事を許さず、結果として半分の魂が抜け出れなくなり、死にたくても死ねない体となった。
戦争とは恐ろしいものだとテスは語っている。
「という事でこれからよろしくおねがいしまーす」
墓場からまるで亡霊のように俺様についてきたテスはぐっとポーズをして見せたのであった。
それを見ていた魔法猫ティータさんは口からつばを飛ばした。
グリドリーにいたっては恐怖からか、木々の後ろに隠れてしまった。
俺様だって逃げてーよとか思っていたのだが。
「これはこれは、楽しそうなところですね、なんと巨大熊まで手名付けてしまいましたか、やはりうちが見込んだだけありますねぇ、さてうちは何をしましょうかね」
「何か出来る事はあるの?」
俺様の問いかけに、彼女はこくりと頷いて見せた。
「まぁ、狩人の衣服を着用しておりますが、採集が得意です。果物、キノコ、野菜、薬草、まぁ狩もやろうと思えば出来るのですが、この体では出来ないですし」
「そうか、ならテスは食べ物の収集をお願いしたい。こら、ティータとグリドリーこっちにこいよ」
「襲ってこぬかにゃ? 怖いにゃ」
「ぐるるるうる」
「魔法猫が何を言っている。グリドリーは巨大熊なんだから自信をもてよ」
テスの目の前にグリドリーの肩に乗った魔法猫がやってきた。
グリドリーは恐怖の中、鼻づらをテスに合わせる。
臭いを嗅いで見せた。
するとグリドリーはぐるるうると叫ぶのを止めた。
可愛らしい声で泣いた。
次に魔法猫はその光景が信じられないとでも言わんばかりにテスを見て、魔法猫はごくりと生唾を飲んでいる光景が見えていた。
魔法猫はぺろりと魂の部分の肉体を舐めると、体に激震が走ったかのように身震いしていた。
その時からグリドリーと魔法猫はテスにぞっこんとなった。
そのあとテスと魔法猫は食べ物の採集に向かった。
俺様とグリドリーはまた伐採を始める事となった。
ひたすらの伐採に時間をかけつつも。
色々と考えさせられるものがあった。
この島には沢山の謎があり。
謎の1つにテスの事もある。
そしてテスから聞いた昔の話。
まさに自分が作ろうとしている国の志に似ていると感じたのも事実。
でも何かが違うのだろう。
俺様が作らねばならないのは、滅びてしまったあの国ではない。
1から建国するこの国なのだから。
その時だったグリドリーが大きな雄叫びを上げた。
その鳴き声は尋常ならざるものだった。
目の前に巨大熊の群れが20体くらいはいたであろうか、
小熊もいたり、大人の熊もいたり、老齢の熊もいた。
どの熊もこちらに攻撃を示す合図を送らない。
1体の老齢な熊がやってくる。
驚くべき事に杖をつついている
二足歩行をしているではないか、
その老齢の熊は口が小さくて、
まるで、日本にいた時にやったゲームの獣人熊を思い出させるものがあった。
目の前に到達した老齢の獣人熊は会釈する。
後ろでガードマンみたいに突っ立っている2体の熊に挨拶をする。
2体の熊が挨拶すると、
グリドリーはその1体の熊と抱き合っていた。
まるで久しぶりに旦那に出会って嬉しそうにしている夫婦のようだった。
「この島のものではないお主が、この子の面倒を見てくれて本当にありがとうじゃ、この子は少しおてんばでな、旦那から目を盗んでは、冒険したがるもので、島の反対側まで来ているとは思わなかったんだ」
「あなたは? 失礼、俺様は澤島アギトというものです」
「ふむ、澤島とは漢字なのか?」
「そうです」
「なら、お主は異世界人ということか、この世界には漢字は存在しない、わしは遥か昔異世界人と旅をした。そして漢字を教えてもらった。漢字を習得したのはこの世界では一握りじゃ」
「なるほど、そのあなたがなぜこの島に?」
「それはこちらのセリフなのじゃが、まぁよい、この島は我らが故郷、遥か昔この島にやってきた開拓王の配下の1人じゃ」
「でもその開拓って結構昔でしょ?」
「そうじゃなぁ、数百年、または数千年前じゃ」
「なんであなたは生きているのですか?」
「うむ、まだ寿命ではないのだろう、獣人族とはエルフ族やドワーフ族と同じで長命なのじゃ」
「そうですか、なぜ熊たちを世話しているのですか?」
「そうじゃのう、獣人熊は熊から進化したと言われている。わしの仲間たちはほとんど死に絶え、残ったのが巨大熊じゃ、彼らを世話する事がわしの生きがいじゃ」
「なんだか僕と似てますね、僕は世界を助ける事が生きがいなのです」
「そうか、そのような考えを抱く者がまだいたか、ちょっとまってくれお主が名付けたグリドリーに聞いてみよう」
獣人熊の老人はゆったりとグリドリーの元に到達すると、グリドリーに向かって一言二言話している。
するとグリドリーは突然にこりとほっぺたをなでながら。
すごく楽しそうにぐるぐると話をしている。
きっと獣人熊の老人には理解する事が出来る言葉なのだろう。
獣人熊の老人が戻ってくると、
その場にいたすべての熊たちが頭を下げてくれる。
そして老人が高らかに呟くのだ。
「お主の配下にさせてもらえないだろうか、ここにいる20体とグリドリーを含めて、わしも含めあなたの配下またはあなたの下僕になる事を誓おう」
「配下も下僕もいらないよ、友達になろう」
俺様は手を差し出す。
友達なんて作った事がなかった。
小学生の頃に確かに友達はいたけど、何度も裏切られた。
人を信じる事が怖くなった。
いつしか1人だけの世界に入ったり、
いい人間を演じて別な人と話をしたり。
それでも、心を許す事はなかった。
しかし、目の前の獣人熊の老人は信用に足る人物。
そう思ったんだ。
「俺様は澤島アギト、アギトと呼んでくれ」
「わしはタグマじゃ、タグマ爺と呼んでくれ、他の20体たちには名前がないから、あとで付けてやってくれ、名前を付けると言う事は自分自身に取り込むという事だから、疲れると思う、ゆっくり名付けてくれればよい」
「ありがとうございます」
「では一仕事をしよう、グリドリーからどのような仕事かは聞いておるぞい」
「は、はは、そうですね、俺様が木々を伐採するので、片端から運んでください、場所はあそこです」
「承知」
かくして20体の熊と1体の獣人熊と1体のグリドリーは、まるで音楽隊にでもなったかのように、らんらんと歌を歌いながら原木たちを運んでいった。
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