第20話

 

 

 

 

「先生どうしたんですか?顔色悪いです」


「なんでも…ない」



全身から血の気が引いていくのがわかる。



毅から連絡が来るんじゃないかと俺は心のどこかで思っていた。




ショックでスマホを持つ手が震える。


毅には何も言わず距離を置こうと自分で勝手に決めていたけど、そんなの意味無かった。



その前に俺はもう………



このLIMEが嘘だと思いたい。


結婚が本当かどうか電話をかけて直接、毅に確かめたい。


でも……怖くて連絡出来ない。


だって現実であってほしくないんだ。


メールに書いてあった毅の結婚相手は大学時代のサークルメンバーで……


俺が大嫌いな先輩だ。




手の中のスマホが急に鳴った。




ピロリロリロリロ~♪ ピロリロリロリロ~♪




久しぶりに聞くこの着信音は毅!


2カ月ぶりに来た毅からの電話!!


きっとさっきのメールはアイツの悪い冗談だって、嘘なんだって俺にかけて来たんだ。


急いで電話に出る。



「もしもし!」


『あ、松岡君?』



電話の向こうの声は毅じゃなくて女性の声だった。



『あたし、わかるかしら?斎藤さいとうです。斎藤さいとうキミコ。今、電話して平気かしら?』



彼女は……メールに書いてあった毅の結婚相手だ。


斎藤キミコの印象は強かった。


サークルの中で一番背が低く、良く言えば「ぽっちゃり体型」だから目を引いた。


それだけならマスコット的な存在にもなっただろうが、彼女の性格が可愛くなかった。


好きな男の前とそれ以外では全く態度が違う。


大学の頃から彼女は毅のことが好きでべったりだった。


だが細身でスタイルの良い女性が好きだった毅には 全く相手にされず嫌われていた。


そして毅のそばに居る俺が目障りで、先輩という名目で顎でこき使い俺を引き離そうとしていた嫌な奴だった。


その彼女がなんでこの電話を使っているんだ?



「………ああ、斎藤先輩、少しなら大丈夫ですけど、どうしたんですか?」



……話していて凄く嫌な気分になる。



「うふふっ、この電話に毅じゃなくて、あたしが出てびっくりしたでしょう?松岡君にあたしから直接ちゃんと言っておきたくて携帯を借りたのよ。あたし達、来月結婚することになったの。……ごめんね。」



ごめんね?



なんだ?この引っ掛かる言い方は……まさか俺達の関係を知っていて…?……




後半は凄く申し訳なさそうな声を作って喋っているが大学時代の彼女を知っていればそんな嘘、簡単に見抜ける。


毅が自分を選んだ事を俺に自慢したいだけだ。


…こんな電話切りたい……なんで彼女と話さなくちゃいけないんだ?!


握った拳に力が入る。



「あー、そうらしいですね。メールで教えてもらいましたよ。おめでとうございます。良かったですね。」




『!…っ………。』



彼女は絶句する。


ほんの数分の違いだか、前もって知っていたために俺は動揺を抑えられた。


だが平静を装って、お祝いの言葉を言うのが精一杯。


彼女は俺が知っていたということが悔しかったのか、勝ち誇りたかったのか、もう一度同じ言葉を繰り返す。



『………ごめんね。』



二度目の言葉には悪意を感じた。



「…なんで謝るんですか?おめでとうございます。お幸せに。」


『………ありがとう………………………。』



俺は腸が煮えくりかえって、これ以上話す気になれなかった。



「………………。」


「………………。」




向こうも俺の反応がつまらないのか、それとも話すこともないのか受話器の向こうで黙っている。


電話を切るきっかけが分からないのなら、こんな電話かけなければいいのに。



「俺、そろそろ仕事に戻らないと。他の人にも結婚の報告電話するんですよね?忙しいのにわざわざ電話してくれてございます。毅にも宜しく伝えておいて下さい。じゃ。」


『……さよなら………。』



それだけ言うとに電話が切れた。



「………っ………。」



俺はその場に立ち尽くしていた。


堪えていた怒りで拳が震える。


どうして俺が人生の敗北者みたいに言われなくちゃならないんだ?


馬鹿にするのもいい加減にしろ!


そう言いたかったけど変なプライドが邪魔をして言えなかった。



「先生のご友人ご結婚なさるんですか?」



後ろから声をかけられてギョッとした。


頭に血が上っていたせいで中島がいる事をすっかり忘れて電話していた。


中島が言うように結婚するのは「友人」だ。


もう恋人じゃないんだ。



「…そうだ…」


「…………………俺、用事を思い出したので帰ります。」



中島は手早く机の上を片付けて帰って行った。


捨てられたことが悲しいのか、それとも先輩に見下されたことが悔しいのか、分からないがいつの間にか泣いていた。



「くっ……っ………」



中島が帰ってくれて助かった。


泣き顔を見られなくてすむ。


毅に落とされて捨てられて……俺は最初から最後まで振り回されていただけだったな。


いつもの浮気が本気になっただけ相手は俺との関係を全て知っていても結婚してくれる女。


そんな女なんて中々いない。


あいつ良い人に巡り合えたじゃないか。


男と女…それが正しい恋愛の形なんだから…。


別れの言葉を彼女に言わせるなんて…それくらい自分で言えよ。


そんな情けない男と付き合っていたなんて本当に………俺って馬鹿だな。


もう恋愛なんて懲り懲りだ。


 

 

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