第21話



演劇部の部活が終わり 鍵を返しに来た岡田は驚いた。



「あれ?中島先輩 いないんですか?」



いつも一緒に帰るために待っているはずの中島がいない。





中島は頭がいい…俺に気を遣って帰ってくれたんだ。


ごめんな 岡田。



「…急用で帰ったぞ。今、手が離せないから鍵は机の上に置いといてくれ。」



泣いた顔を見られないように背を向けて片づけなくてもいい棚の奥に手を突っ込み、仕事が忙しいふりをした。



「はい。鍵 有難うございました。先生さようなら」


「気を付けて帰るんだぞ。」


「はーい。」



岡田がドアを締めるのを耳で確認すると俺はのろのろと立ち上がった。


帰り支度を済ませると机の上の鍵を掴んで階段を下りていく。


待ちきれなかった事務員のおばちゃんは階段を駆け上がって来て鍵をひったくる。



「金曜日なんだから早く帰りましょう!!!」



そう言うとすぐに学校から追い出された。


校門を出ると すっかり陽は落ちて辺りは真っ暗だった。



「せーんせ♪ 駅まで一緒に帰ろ♪」



どこから出てきたのか石崎が背後から声をかけてきた。



「…石崎…… 一人で帰りたいんだ……放っといてくれないか。」



今、石崎の相手を出来る精神的余裕はない。



「せんせ~♪ 冷たいなぁ~。」



すり寄ってくる石崎を片手で制した。



「…悪いな…」


「…っ…はい…すみませんでした。」



どんな表情をしていたのか自分でもわからないが、俺の顔を見ると石崎は大人しく引き下がってくれた。




帰宅途中、目に入ったコンビニに寄ってビールの6缶パックを買った。


歩きながら冷えたビールを開けて喉の奥に注ぎ込む。


俺は酒に弱くてすぐに酔うから飲み会でも極力飲まない様にしている。


だが今日はむしゃくしゃして何が何でも飲みたい気分だった。


一缶目を飲み干すと彼女の見下した『ごめんね。』という言葉が頭の中で再び聞こえてくる。



「くそっ!『ごめんね?』嫌味にしか聞こえないぞ!ブス!人のこと見下して!あんな奴いらねぇよ!熨しつけてくれてやる!!」



周りに迷惑だとは分かっていたが言いたいことを言うと少しだけすっきりした。



「……ふっ…っ…う…くそっ…」



叫んですっきりしたはずなのに……涙が頬をつたう。


二缶目を開けて今度は一気にビールを煽ると 体全体が心臓になったみたいにドクンドクンと太鼓のように脈を打つ。



「まず、いな。頭ん中 ぐるぐる回る… 気持ち…悪い…」



歩いているせいか、いつもより酔うのが早い気がする。


急にアルコールが回ってきたらしい。


身体がふらふらして足がもつれて歩道で転ぶ。



「…った……」



転んだ時にぶつけた頭や手が凄く痛い。


手に持っていたコンビニのビニール袋はアスファルトに思いっきり叩きつけたらしく、袋から何かが噴き出すような音が聞こえてくる。


少し遅れて泡とビールが袋から流れ出てくるのが見えた。



「ああ、勿体無い…」



起き上ってビールの入った袋を手に取ろうとすると さっきよりも酔いが酷くなっているみたいで今にも口から心臓が飛び出しそうだ。


頭の中もぐるぐるアルコールでかき回されてどんどん気持ち悪くなる。



「……うー……気持ち悪……」



俺はコンビニの袋を諦めてそのまま歩道の真ん中に横になった。



頭の中は変に冷静だった。




経験上、凄く酔ってしまった時は横になってじっとしてるのが一番早く酔いが醒める。




落ち着いてから歩かないと また転んで怪我したり吐いてしまうからな。





俺はビニール袋から流れ出てくるビールを諦め、ただ見詰めていた。





アルコールで熱くなった身体にアスファルトの冷たさが気持ち良い。







だんだん瞼が重くなってきて 俺は重力に逆らう事なく そのまま目を瞑った。







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