第16話




漆黒の穢れのない美しい瞳が俺の手を見つめている。


中島がモテるのは美しい容姿だけじゃない。


俺が何気なく言ったことをちゃんと覚えていたんだ。


今朝、コンビニに買いに行って無かったんだろう。


短い昼休みを使ってわざわざ外に買いに行ってきてくれる………


こういう思いやりや優しさが皆に好かれるんだ。



「じゃあ先生、口を開けて下さい。俺が食べさせてあげますから」


「えっ!」



中島はスイーツを覆っている透明な蓋を開け、小さいスプーンでたっぷりとすくいあげる。



「い、いいよ。子供じゃあるまいし…」


「はい、あーん。口を開けて下さい。落ちちゃいます。」



目の前に出されたスイーツはプルプルと小刻みに震えて少しずつスプーンから動いて逃げようとしている。



「わっ!落ちるっ…」



俺は慌ててスプーンを口に入れ、床に落ちるのを食い止める。


この格好はまるで親鳥に餌付されているヒナの様。


スプーンの先にある嬉しそうな中島の顔がすぐそばにあった。


ドキッ!


こんな近くで中島の顔を見るなんてめちゃくちゃ落ち着かない。



「先生、もう一口。はい、あーん。」



中島はニコニコしながら1回目より少なめにすくって目の前に運ぶ。


だけど小さなスプーンのバランスは微妙な感じで今にも落ちそうになっている。


……うう、恥ずかしい。


仕方なく口を開けて中島に食べさせてもらう。



「味どうですか?」


「う、…うん。もういいから」



ドキドキし過ぎて味なんかわかるわけないだろっ。


顔が熱い……


多分、かなり赤くなっているはず……。


中島に見られないように背中を向けた。



「えっ!これ美味しくないんですか?」



棚のガラスに映っている中島が同じスプーンで残りのスイ―ツを食べるのが見えた。



「あっ!!」



振り向いた時にはもうスプーンは中島の口の中に入っていた。



「うん?…ん?…美味しいですよ。先生はこういう味、嫌いなんですか?」


「好きだけど、そうじゃなくて…」


「えっ、違うんですか?もういいって言ったから俺……あ、もっと食べたかったですか?」


「……あのなぁ、俺の食べかけなんか食べるなよ。」



中島お前~~、それ間接キスっていうんだぞ!知らないのかっっ!!


顔の温度が更に上がっていくのがわかる。


いや、向こうがキスと思っていなければ何ともないのか。


何してくれるんだよぉ…お前はぁ。



「すみません。でもこれ最後の一つだったんです。」


「それならここに持ってこないで一人で全部食べれば良かったのに。」


「俺は先生と一緒に食べたかったんです。だから先生と半分コです。」



中島は美味しそうに残りを食べてしまった。



「美味しかったですね。今度は頑張って二人分買ってきます……あ、先生動かないで…」



中島の長い指が俺の口の端から唇をなぞった。



「なっ、なに?」


「これです。もう取れました。」



中島の指にはクリームが付いていた。


最初の一口の時に慌てていたから上手く食べられず、口の端にクリームがたっぷりとついていたらしい。


教えてくれれば自分で拭いたのに…。


その指を中島がぱくりと口に含んだ。



「わあぁっ!」


「? どうしたんですか?」



どうしたんじゃないだろ!



「その指っ!」


「 ?  指?…食べるの行儀悪いですか?」



中島の無邪気な仕草にいちいち動揺してしまう。



「あ、当たり前だろ!」


「でも美味しいのに勿体無いじゃないですか。」



子供かお前はっっ!!


っていうか中島は生徒こどもなんだっ!!


ドキドキするな俺っ!!平常心だ、平常心!!



「????はい…?」



他意がないのは分かっている。


分かってはいるが、中島の行動は心臓に悪い!!

 

 

 

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