第7話
一人きりの美術準備室はしんと静まり返りドアの外からは殆ど音が聞こえてこない。
これだけ静かなら中島が戻って来てもすぐにわかるよな?
一応仕事中なので生徒と同じくスマホは使用禁止なのだけど、俺はこっそり取り出して着信をチェックしてみた………が毅からの連絡はない。
「……毅…怒っているのかな…」
まさか部活が毎日あるなんて思ってもみなかった。
演劇部の顧問がこんなに時間に縛られると分かっていたら軽はずみに引き受けなかったのに。
顧問になってから早く帰宅する日がなくなり、平日が休みの毅とは時間がまるっきり合わず、すれ違う事が多くなってしまった。
毅には会いたくても会えない今の現状をメールしておいた。
そんなに怒るような内容は書いてないはずだよな。
不安になって送信したメールの内容を確認した。
『産休の先生の代わりに演劇部の顧問をすることになった。生徒達はコンクールに向けて練習をしていてギリギリまで学校にいるから顧問の俺は何かあった時の為に責任者として一緒に残らなくちゃいけないんだ。コンクールが終わるまでは、しばらく会えそうにないよ。ごめん。』
このメールを送ったのは5日も前だった。
それなのに未だに毅から返信が来ないし電話にも出てくれない。
会えないからって…そんなに怒ることかよ。
仕事だから仕方ないじゃないか。
でも、1カ月も会えないのはさすがに長すぎるよなぁ。
演劇部の顧問を引き受けたあの日…練習を次の日にしてもらって会いに行けば良かったな。
今更、後悔しても遅いけど。
……今夜、遅くなるけど毅の家に行こうかな?
明日は毅の家から学校には行けばいいし……。
同じスーツを着ていくのは嫌だけど…。
そんな事を考えていたら急に手の中のスマホが振動した。
毅からのメールだ!
俺は嬉しくて急いでメールを開けると返事はたった一言。
『わかった』
たったこれだけ?
一応、仕事の事は納得してくれたらしい。
納得してなければ電話でもメールでも文句を言うはずだ。
いつも短いメールだけど……。
これは短すぎる。
それに聞きわけが良すぎるのも……。
……………。
怪しい。
怒っていなくて返信が遅れがちでそっけない。
こういうときは大抵…
浮気している!
今まで毅がしてきた浮気のパターン。
浮気相手に夢中になっているから俺の方に気が回らない。
だから会えなくても怒らないし電話やメールする事すら面倒くさいんだ。
俺はがっくりと肩を落とした。
「もお、やだ。」
いつだったか急に授業が休みになって毅の家に行くと、知らない男が俺のシャツを着ていて修羅場になった事があった。
そのシャツを着ていたのが女の時も…。
浮気されるたびに「今度こそ別れてやる!」といつも思うけど…
惚れた弱みなのか、ついつい毅を許してしまう。
知らない男が俺のシャツを着て部屋をうろついている光景が脳裏に浮かぶ。
怒りが湧き出てきて手の中のスマホを握りつぶしてしまいそうになる。
大丈夫。いつだって浮気相手とは続かず、すぐに飽きて俺の所へ戻ってくるんだから……でも……でも……。
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