第8話
「あーっ!やっぱりムカツクッ!!」
「せ、先生どうしたんですか?
振り向くと中島が驚いた顔して後ろに立っていた。
手には缶コーヒーが2つ握られている。
今の見られていた?!
「ハハハ…いや、なんでもない。独り言だよ。ハハハ…中島、早かったなァ。有難う。」
俺は買ってきてもらったコーヒーとおつりを受け取ると誤魔化すように慌てて飲み始めた。
中島は元気なく椅子に座ると缶を見詰めながら俺に聞いて来た。
「先生…」
「ん?」
「今の…………恋人からメールが来たんですか?」
「ゴブッ!!」
思わぬ言葉に俺は噴き出してコーヒーが器官に入り咳込む。
「ゴホッ! な、何言ってんだよ。! まさか俺のメール見たのか?!」
「………いえ、見ていません。」
そうだよな。中島は離れて立っていたから見える訳ないし、たとえ内容が見えたとしても、メールの内容は『わかった』しか書いていないから何の事か分かるはずない。
「あてずっぽうで適当な事言うなよ。」
「…適当じゃないです。先生は顔に出やすいから…」
「!」
まずい、今まで一人でここにいたから周りを気にしていなかった。
これからは中島がここに居る事が多くなるんだから気をつけないといけないな。
中島の缶を開ける音が静かな部屋に響いた。
「…………喧嘩…したんですか?」
中島は更に追求してくる。
話題を打ち切らせる為に怒った。
「うるさいな。なんでお前に答えなくちゃいけないんだ。プライバシーの侵害だぞ!」
「すみません。」
一言謝ると椅子に座り黙り込んでしまった。
中島は勉強をするそぶりも無く、コーヒーを飲むではなく、ただ手に持った缶を見詰めて寂しそうに俯いている。
気まずい空気が流れているが、俺は悪くない当然のことを言ったまでだと中島に背を向けた。
長い沈黙の後。
中島が、ぽつりと話し出した。
「………俺、片思いだから……。先生の恋人が羨ましいです。」
「片思い?……嘘だろ?…お前の事、嫌いな女の子はいないだろう?」
振り向くと、中島は悲しいような辛いような、複雑な表情をしていた。
「俺…その人には多分…嫌われてはいないと思うんですが……俺の事を恋愛対象としては見てもらえていないんです。どうしたら好きな人に振り向いてもらえますか?」
中島の声は思いつめた感じで俺に聞いて来る。
「そんな事言われてもなぁ……」
あの変な質問は恋人のいる俺に相談するきっかけが欲しかったのか。
中島は好きな女の子に振り向いてもらうにはどうしたらいいのか悩んでいる。
……と言っても相談されている俺自身、恋愛経験なんか無いに等しい。
実際、俺は毅としか付き合った事がないから恋愛相談なんかのれる立場じゃないのに…。
だけど俺は中島のファーストキス(?)を奪ってしまった負い目があるからなぁ……。
「……俺じゃ、たいして良いアドバイスは出来ないけど、それでもいいなら相談に乗ってもいいぞ。」
「本当ですか?」
中島は嬉しそうに顔を上げた。
「俺に答えられる範囲にしてくれよ。彼女に告白はしたのか?」
この言葉を聞くとまたすぐに俯いてしまった。
「……出来ません。」
出来ません? 変な事言うな。
「でも、勇気を持って自分の気持ちを伝えなくちゃ。相手がお前の事、好きか嫌いか分からないじゃないか。お前だったら大丈夫!絶対OKもらえるさ!」
「本当ですか?じゃあ先生は今の恋人に好きだと言って付き合うことになったんですか?」
「えっ!俺?俺の事は良いだろう。お前の参考になんかならないよ。」
「教えて下さい。お願いします。」
必死な顔で中島が俺の傍に詰め寄って来た。
少し遅れて彼の纏っている爽やかな香りが俺の身体を包み、真剣な眼差しが突き刺さる。
「わかった。穴が空くほど俺を見るな。俺の場合は向こうから告白して来たんだ。だからお前の参考にならないって言っただろ。」
「なんて言われたんですか?」
話をはぐらかす為に言っていると思っているのか、中島はなおも聞いて来る。
「普通だよ。普通に付き合って下さいって言われたんだ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます