五日目
昨日頼んでいた服が届いた。一着だけ開封してみる。
見たところ、サイズ感は丁度よさそうだ。しかし、どう着せようか。彼女たちの住処である水槽の真ん中に置いてみた。自分で袖を通してくれれば手間もかからず楽なのだが、そううまくいくとは思えない。彼女たちは服を着たことがないかもしれないからだ。あの二体は今までどのように生きてきたのだろうか。彼女たちが生まれてどのくらい経つのかさえ私は知らない。「少女のつがい」を渡されたとき、彼は「密閉してやるな」以外に有用そうなことは何も言わなかった。彼女たちを私に押し付けてきた友人にきくことができると早いのだが、送ったメールには何一つ返事が来ない。留守にするからといっていたから、きっと忙しくしているのだろう。
二体はいつものように隅でぴったり寄り添って座っている。勝手に着てくれるかもしれない、と期待して入れた人形用の衣服へ、すこしも興味を示さない。ちらと見ることすらしないのだ。彼女たちは、互いを見つめ合ったり、毛繕いをするように体を舐めあったりするので忙しいらしい。
B-01を水槽から掴んで取り出し、用意した服を着せてみることにした。手でつかむと、相変わらずじたばたと暴れる。触れる際は必ず手袋をはめているのだが、動きが活発すぎてだんだん手袋がよじれていく。手袋をはめている状態で、着せ替え人形大のものに衣服を着せるのは、巧緻性が問われる難易度の高い作業である。マジックテープ式のものだったが、着せるのに時間が掛かってしまった。着せたまま水槽に戻すと、B-02はB-01が着せられた衣服に興味をもったようで、布地を恐るおそる触った後に、抱きつくような行動を見せた。B-02にも着せてみたが、水槽に戻してすぐ、居心地が悪そうにして着せた服を脱いだ。それを見ていたB-01は、同じように脱ごうとしたのか、もぞもぞと動いていた。しかし、自力で脱ぐことはできなかったようで、そのまま水槽の隅に移動していった。
観察を続けると、服を着たまま隅に座っているB-01に、B-02が近づいていった。B-02が脱いだ服は水槽の中心に置かれたままである。二体はぴったりくっついて座ると、B-02はB-01に対してグルーミングをし始めた。しかし、布地を舐め続けるのは、糸くずなどの誤飲につながる可能性がある。そのため、B-01の服を脱がせ水槽に戻したが、彼女たちは変わらずグルーミングを続けていた。服が気に入らなかったのだろうか。
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