第48話 玄界灘ひとりぼっち

 河口をなんとか突破した私はそのままの勢いでどんどん沖へと向かって走っていった。幸い今日もあまり波はない。ふと気が付くと見慣れない島の近くまで来ていた。後で調べてわかったが津屋崎沖の相之島であった。相之島の津屋崎側には通称鼻栗巣といわれるメガネ岩がぽつんと立っている。それが眼で確認できるところまで来ていた。


 私は我に返り魚探を船に取り付けることにした。先ほど家内と母からからかわれた機械である。配線を接続し電源を入れる。と、とたんにピーピーと警告音のようなアラームが鳴り響いてとまらない。機械自体は正常に動いているようだ。あれこれメニューをいじるがアラームが止まらない。


 うるさい。


 なんせこちとら傷心気味なのである。


 困り果ててネットでホンデックスの本社を検索して電話してみることにした。


「もしもし。あの。御社の魚探のアラームがとまらないんですがどうしたらいいでしょう?」

「え?あの。使い方は?」

「わかりません。」

「もしかしたら中古で買ったんですか?」

「はい。船についてたんです。」

「ああ。そうですか。じゃあ、面倒だからいったん設定をリセットしたらいいですよ。やり方を教えますね。」


 みなさん。私はホンデックス以外の魚探をもちろんつかったことないですがホンデックスの方は皆、疑問に即答してくれますよ。ははは。わらいごっちゃない。ホンデックスの方の言うとおりにしたらアラームはぴたりと止まった。振り返ってみると先ほど飛び出してきた陸がとおくに霞んで見える。平日だからだろうか。回りには一隻の船も見えなかった。すると今度は途端に孤独感が押し寄せてきた。そういえば一人で海に出るのは今日が初めてなんだった。私は無事に津屋崎スズキマリーナまでたどりつけるのだろうか。


 とにかく練習だ。燃料を確認するとほぼ満タン入っている。船の調子はすこぶる良い。念のため釣り具もつんである。そうだ。釣りだよ。釣り。ジギング小僧である私は早速40gのジグを取付け下に落としてみた。当然、釣れない。しかも、ジグがどんどんあらぬ方向へ流されていく。これは一体どういう理屈なのだろう。


 これでは釣りにならぬ。


 やむなく仕掛けをあげ、運転の練習に専念することにした。改めて海上を見渡してみると穏やかな風にきらめく海面が炎のようにゆらめいている。時折、魚がはねる。サメが背びれを突き出して横切っていく。身近な海のこんなにも豊かな姿を目の当たりにした私は声もなくただ感動していた。数十匹のトビウオが一斉に海面から飛び立つさまは圧巻でさえあった。


 船はおおよそ10ノットぐらいのゆっくりした速度で相之島から大島へ向けて走っていく。

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