第47話 別れ
Fマリーナに移動して車から降り事務所へ向かいたこぼうずに声をかける。家内と母が車の中から不安そうにこっちを見ている。私はまるで入園式の幼稚園児のようである。
「ケイです。船を出してください。」
いろいろと言いたいこともあるが全てをぐっと飲み込んだ。今日もわーわー言われるかと身構えたがたこぼうずは不思議なことに今日は一言も言わず船をおろす準備を始めた。肩をすかされたような気がする。もう問題ないだろうと車から道具を降し家内と母に家に帰るよう伝える。しばらく準備をしているとたこぼうずが妙なことを私に聞いてきた。
「もう、この船台はつかわんのかね?」
「え?なんでそんな事を私に聞くんですか?そんなことは私にはわかりません。」
船台というのは上架した時に船をのせておく台のことで、マリーナではいわゆる駐車料金を船台賃料などとかかれていたりもする。22フィートの船で年間の賃料が福岡で一般的には20~25万円ぐらいであろうか。
「いや。Yさんはもうこの船台はもういらんのじゃないか?」
「私とあなたとはなんの関係もないんでしょう?この間あなたが私にいったじゃないですか。なんの契約もむすんでない。そんな私に船台を使うとか使わないとか聞かないでください。おかしいでしょう。しりませんよそんなこと。契約した方にちゃんと確認したらいかがですか?」
ヘンなことを聞く人だ。私とFマリーナにはなんの契約関係もないと大声で罵倒しておきながら、なぜ船台を今後使うかどうかの言質を私から取ろうとするのだろうか?無言で出港の準備をし、あっけないほど簡単に船は河口におろされた。私は電源を入れエンジンをかける。今までの難癖は一体なんだったのだろう。一旦船をはなれ降船料1500円を払う。するとたこぼうずはまた同じことを聞いてきた。
「もう、船台はつかわんだろう?」
ははあ。そういうことだったのか。おそらくではあるが、私に嫌がらせをして出て行かせるようにして船台を開けさせる。そして「もう船台はつかわない」という言質を契約者ではない私から取ろうというのであろう。そう私にはぴんときた。と同時に今まで以上にハラワタが煮えくり返るような気がした。私は初めて大声を出した。
「だから、何度も言っただろう。私とあなたはまったく無関係。そう言ったのはあんたじゃないか!!そういうことは契約した本人と話せ!!」
私は船に飛び乗りクラッチをつないだ。河口は思ったよりせまく、右手に明らかに砂がたまっている部分がある。河口を出てからのの浅瀬も聞く暇がなかった。右も左もわからない。しかし、もう一瞬もこの場にとどまりたくない。私は何もわからないまま船を出した。ちらっと後ろをふりかえるとたこぼうずともう一人が大きな声でなにか言っている。何を言いたいのかまったくわからない。第一エンジン音で声など何も聞こえない。
私は海の方に視線を戻しどんどんエンジンの回転を上げていった。
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