第46話 別れの朝

 もう本当にグズグズしてはいられない。相手のペースに持ち込まれたら終わりだと思った私は仕事の予定を調整し、次の週の火曜日をあけた。Yさんに連絡しその日は絶対に船を出すからとFマリーナに伝えてもらう。私もその後Fマリーナに電話を入れ同じことを伝える。


 Wさんに電話をして申し訳ないが来週の火曜日にもう一度手伝ってくれないかと頼む。


「あ。その日はだめ。俺は釣りに出る約束が入っとる。」

「あら、そうですか。」

「まあ、一人でなんとかなるよ。船は出してもらえる約束ちゃんとしたんだろ?」

「はい、一応、なんとか。」

「海に出てるからなにか困ったことがあったら電話しなさい。」


 さて、その当日。


 船を出した後にもう一度Fマリーナに戻りたくないと考えた私は、またもや家内に加勢を頼むことにした。移動先の津屋崎スズキマリーナまで私と家内の二台の車で行き、津屋崎スズキマリーナに私の車を置いた後、家内の車でFマリーナに移動する。そうすれば二度とFマリーナに行かなくて済む。私は仕事場から直接。家内は北九州から津屋崎に向かってもらう。


 津屋崎スズキマリーナに到着した家内の車から何故か知らないが家内と私の母が降りてきた。


「は?えーっ。かあさん、なんできたん?」

「きたかったけたい。」

「きたかったけ、ってかあさん…もう。えみちゃん、なんでかあさん連れてきたんね?」

「話したらきたいっちいうけ。」

「そりゃ、でしゃばりなんやけ、話したらくるっちいうくさ。」

「船、また出してもらえんかったら私がわーわーゆーちゃる。」

「いやあ。それだけは勘弁して。」


 そんなやり取りを横で眺めながら家内は笑い転げている。けらけら笑っている二人をほったらかして、もくもくと道具を家内の車に積む。釣り道具と、タックルボックスと、魚探。魚探を見た家内が


「パパ、それはなんね?」

「ああ。これ?魚探だよ。」

「なんね。ギョをタンするんね。ギョをタンする機械ね?」

「ごめんねえ。えみちゃん。けいは馬鹿やけ、ギョをタンせななんもしきらんのよ。」


 何がツボにはまったのか知らないが二人で腹を抱えてひーひー笑っている。こっちは本当に涙が出て来そうだ。一体全体こいつらは何をしに来たんだ?


 燃料がどれくらい残っているのかもわからないので念のため軽油を20リットル詰め込む。忘れ物はなし。


 さて、決戦だ。

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