第45話 ヒーイズナッツⅡ
火曜日朝8時。
会社を出てWさんの家に向かう。Wさんは奥様と朝のお茶をしながら待っていてくれた。Wさんの奥様はとても素敵な方で私はお二人のお話をうかがうのを何よりの楽しみにしている。なんの用事もないのに突然遊びに行ったりするのだがいつも歓待してくださる。
奥様に挨拶をした後、Wさんを乗せF市へと向かう。5分ほど走っただろうか。突然電話がなった。Yさんからであった。
「あの。ケイさん、実はFマリーナの親父が今日は船をださないというんです。」
「ええええええええっ。な、なんでですか?」
「いや、私もそれを聞いたんですがなんか返事があやふやで。」
「今日はひょっとして休みとか?」
「いえ、それはないと思います。Fマリーナは休みはないはずです。」
「じゃあ、なんで?」
「いやあ。困りました。」
「私、今、手伝ってくれる方と一緒にF市に向かっているんですが?」
「…すみません。そうですよね。でも。なんか、手が足りないとか、ごちゃごちゃ言って本当のところがよくわからないんですよ。」
すると、横で話を聞いていたWさんが
「いいよ。ケイ君。とにかく行って船をだそうや。そんな変なことあるかね?自分の船だろう?」
Wさん、実はとにかく熱血漢なのである。
「…はい。そうですねえ。」
電話の向こうではYさんが困り果てている。私はどうしようか逡巡したが一旦引き下がることにした。Wさんには申し訳ないが今日はやめよう。
「わかりました。今日はあきらめます。また、後で連絡します。」
「すみません。」
「いえいえ、Yさんのせいじゃないですから。」
Wさんの家にもどり丁重に謝る。謝りながら俺は一体全体何をしているんだ。何回謝ったらいいのだという思いがこみあげてくる。私は船を買って、ただ魚釣りをしたり、島を見て回ったりしたいだけなのになんでこんなにも意地悪をされないといけないのだろうか。
これだけは皆さんに言っておきたい。船を買うには停泊させる場所が必ず必要だ。停泊所はたいへん不足しているのが現状である。だから、河口などに不法係留してある船がたくさんある。ああいった不法係留もただではさせてもらえない。元締めのような人がいてお金を徴収している。では、そのお金はどこに行くのか?
陸上に係留させてくれるマリーナや、公共のマリーナもないことはない。福岡県の場合、陸上のマリーナは1フィート当たり年間1万円程度。20フィートだと20万円が相場である。一回、上げ下ろしすると大体5000円程度かかる。公共のマリーナや係留施設は圧倒的に数が足りていない。安いのだがほとんど空きがないのが現状である。
ということで私がトラブったような私立の係留施設と年間契約をして止めるのだが周りの人の意見を聞いてみると、本当にトラブルが多い。
安易に係留場所を決めないこと。安いからと言ってそれだけで決めてしまうととんでもない出費が待っている。慎重に決めてください。
Wさんの家を辞した後、アメリカから着信が入った。弟だ。
「にいちゃん。ははは。船だせんやったらしいねえ。ひひひひ。」
母か妹が弟に話したのだろう。情報がだだもれだ。我が家の情報管理はどうなっているのだ?
「…うん。こまっちゃってねえ。」
「もう、その船別の人に売られてないんじゃないの?」
「そ、そんなことないやろ。鍵はいちおう俺が持っとるよ。」
「船の鍵なんかついてないのと一緒だよ。」
「ううむ。」
もし手が届くなら弟の憎まれ口にアメリカのまずいサンドイッチをぎゅうぎゅうに詰め込んで鼻の穴からコーヒーを流し込むところだ。こいつ、もう一回俺の恐ろしさを思い知らせちゃらないかんな。さあ、それにしてもどうしたらいいか。私は弟との会話にまったく集中できなかった。
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