第42話 たこぼうず

 翌朝。


 朝五時に起き出してNさんの家に向かう。Nさんは不安そうな顔をして待っていた。


「すみません。今日はよろしくお願いします。」

「いやあ、まあいいけど。大丈夫かね?沈没せんかね?」

「わかりませんが多分大丈夫じゃないでしょうか?」


 F市まで車で走る。マリーナのオーナーには前日に出港予定の連絡をしてある。途中で足りない釣具を買いコンビニでパンと飲み物を仕入れる。7時ごろFマリーナに到着。マリーナでは先着の人たちが釣りの準備や出港の準備に忙しい。前日、念のため電話を入れていたので、私は車を止めてマリーナの主人に挨拶をしに行った。


 ところが彼は突然どなり始めた。


「きさま。どこに車を止めとるんだ!!どかせ!!」

「は?」

「どかせというとるんだ。どかせ。」

「いや、そんな言い方をしなくても。どこに移動させたらいいんですか?」

「あっちの建物のまえに移動させろ!!」


 今日もおもいっきり機嫌が悪い。とりあえず車を移動させる。


「おはようございます。」

「なんだ。お前は?」

「なんだお前ってなんですか。いえ、先日も挨拶しましたし、昨日も電話いたしましたケイと言います。船を出したいのですが。」

「なに?きさま、何を言ってるんだ?は?船を出す?」

「はい、昨日伝えましたよね。お願い…」

「ふざけるなーーーーっ!!」

「えっ?」


 Fマリーナの主人はそのたこぼうずのような顔を紅潮させ唾をあたりにまき散らしながらどなりまくる。


「俺はな、きさまとはなんの関係もないんだよ。それなのになんでお前の言うことを聞かないといけんのや?」

「いや、それは先日からお願いしているじゃないですか。船を買ったので修理と練習と…」

「そんなこと、しらんわ。しらん。だいたいなんや?お前とはなんの契約もしとらんかろうが。それなのになんでお前の船を出さないといかんのや?」

「は?何言っているんですか?先日も持ち主のYさんからお願いしてもらいましたよ。私もご挨拶に伺いましたしお願いしたじゃないですか。」

「しらんわ。そんなこと。とにかく、お前とはなんの関係もないんや俺は。とっとと出ていけ。」

「いや、ちょっと。」

「出ていけーーーーーっ!!」


 Fマリーナのたこぼうずの顔はさらに赤みを増しますます本物の蛸の様だ。眼は釣り上がりフーフーと肩で息をしている。私はその姿を見てこれは尋常の手段で話をしても始まらないのではないかと思った。

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